張禧嬪(チャン・ヒビン)は朝鮮王朝史に刻まれる宮廷スキャンダルの主役になった

歴史重要人物
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朝鮮王朝の歴史絵巻において、最も人々の関心を惹きつける愛憎のドラマがある。それは絶対的な権力を持つ国王と、野心に満ちた女性が引き起こした未曾有の政治スキャンダルであった。

舞台は第19代国王・粛宗(スクチョン)の治世である。彼の心は、絶世の美女と謳われた張禧嬪(チャン・ヒビン)に完全に奪われていた(人気時代劇『トンイ』では、イ・ソヨンが張禧嬪に扮していた)。

彼女を側室として迎え入れた後、事態は歴史を揺るがす急展開を迎える。張禧嬪が、王室が待ち望んでいた長男を誕生させたのだ。これを最大の好機と捉え、粛宗は恐るべき計画を実行に移し始めた。国母である正室の仁顕(イニョン)王后を、宮廷から追放するという非情な決断である。

【歴史人物紹介】

ここで、この凄惨な宮廷劇を演じた主要人物の関係性を整理しておこう。

  • 粛宗(スクチョン):朝鮮王朝第19代国王。強力な王権を誇示したが、感情の起伏が極めて激しい。彼の女性問題は、そのまま朝廷内の熾烈な派閥争いへと直結した。
  • 張禧嬪(チャン・ヒビン):朝鮮三大悪女の一人として現代まで名を残す。類まれな美貌と底知れぬ野心で、国王の寵愛を一身に集めた。
  • 仁顕(イニョン)王后:粛宗の正室。温厚で慈悲深い人柄で知られるが、後継者に恵まれなかったことが、彼女のその後の悲劇的な運命を決定づける。

時は1689年4月21日。粛宗は重々しい空気が漂う中、高位の重臣たちを御前に召集した。彼の口から発せられたのは、正室に対する苛烈な非難であった。

「中宮(チュングン/王妃のこと)の嫉妬深さには、もはや我慢の限界を超えている」

粛宗は顔を歪め、不快感を露わにした。張禧嬪を側室に据えて以来、王妃の嫉妬が日に日に増長し、自分は閉口していると主張したのだ。

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張禧嬪の恐ろしい策略

王は一切の反論を許さなかった。

問答無用で、仁顕王后の廃妃を独断で宣言したのである。

【キーワード解説】

  • 廃妃(ペビ):王妃の座から引きずり下ろし、身分を剥奪すること。儒教を国教とする朝鮮において、国母を追放することは社会の倫理観の根幹を揺るがす大事件であった。

朝廷では激しい反発の嵐が吹き荒れた。王の決定はあまりに理不尽だったからだ。しかし、粛宗は冷酷非情だった。異を唱える高官たちを次々と容赦なく処罰し、強権を発動したのである。周囲の声を力でねじ伏せ、強引に廃妃を断行した。

宮廷の内外を問わず、人々の間ではひとつの確信めいた噂が駆け巡っていた。

「この理不尽な決定の裏には、張禧嬪の恐ろしい策略が張り巡らされているに違いない」 王からの愛情を巧みに操り、張禧嬪が正室を追い落としたも同然であった。結局、仁顕王后はすべての身分を剥奪された。高貴な王妃から一介の庶民へと転落し、無残にも実家へと追放された。

事件の傷跡も癒えない1689年5月6日。粛宗は再び数名の側近を呼び寄せ、重大な方針を発表した。その中には、朝廷のトップである領議政(ヨンイジョン/総理大臣に相当する)の権大運(クォン・デウン)の姿もあった。

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国家の根幹に関わる重大事

粛宗は前のめりになり、口を開いた。

「現在、中宮の座が空いている。一日も早く新たな国母を立てるべきではないか。張禧嬪は由緒ある家柄の出である。入宮後も徳を積み重ねてきた。一国の母にふさわしい人物だ。直ちに礼節に則り、王妃への昇格を実行せよ」

重臣たちは言葉を失い、困惑した表情でお互いの顔を見合わせた。空気が重く沈む中、代表して権大運が進み出た。

「殿下がすでにご決断されたことに、我々が異を唱えることはできません。しかし、国母の選定は国家の根幹に関わる重大事です」

権大運は慎重に言葉を選びながら続けた。

「品階が二品以上の者たちを広く集め、協議の場を持つのが筋かと存じます」

彼が言及した「二品以上の者たち」とは、国政を左右する大幹部たちを指す。この真っ当な提案に対し、粛宗は突如として激怒し、権大運を鋭く睨みつけた。王は自分の意に沿わない意見に対して、感情のコントロールが全く効かない性格だったのだ。

「大人数で集まって余の決定を覆そうというのか!」

王の怒声が響き渡る。しかし、高官たちも今回ばかりは怯まなかった。国の秩序を守るため、必死に反論を展開した。

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絶対的な権力者の暴走

押し問答の末、粛宗もついに妥協を余儀なくされた。即座に二品以上の高官を招集することに同意したのである。その重苦しい会議の席上、権大運が再び王に問うた。

「殿下は、いつ頃の決定をお考えでしょうか」

粛宗の口から出たのは、耳を疑うような言葉だった。

「すでに日取りは確認してある。なんと今日が吉日である」

王の異常なまでの性急さに、重臣たちはただ呆然とするしかなかった。彼らが求めていた正当な手続きとは、次のようなものである。

  • 歴代国王の事例を綿密に調査すること。
  • 礼儀作法に則った厳かな儀式を準備すること。
  • 朝廷全体の合意形成を丁寧に行うこと。

しかし、王は手続きなど無用の長物と考えていた。己の欲望のままに、すべてを即決しようとしていたのだ。国の厳格な規律を破壊しているのは、他ならぬ国王自身であった。それでも、絶対君主の決定に最後まで抗うことは、誰にもできなかったのである。

臣下たちは最終的に屈服し、粛宗の強固な意志の前にすべての抵抗は無に帰した。こうして、張禧嬪の王妃昇格が正式に決定されたのである。

一介の宮女から身を起こし、ついには一国の頂点に立った張禧嬪。彼女の壮大な野望は完全に達成された。絶対的な権力を手にした彼女は、ここぞとばかりに果てしない贅沢三昧(ぜいたくざんまい)の日々に溺れていくことになる。

【まとめ】

粛宗の張禧嬪への愛情は、仁顕王后の理不尽な廃妃という未曾有の悲劇を生み出した。王は朝廷の厳格な秩序や重臣たちの必死の諫言をことごとく無視し、独断専行で張禧嬪を新たな王妃へと押し上げた。絶対的な権力者の暴走と、一人の女性の底知れぬ野望が複雑に絡み合ったこの事件は、朝鮮王朝史に深く刻まれる宮廷スキャンダルとなった。

画像=MBC

文=康 大地(こう だいち)

康大地

2008年から韓流専門誌で執筆と編集を長く担当。特に『愛してるっ‼韓国ドラマ』誌において、韓国ドラマのレビュー、韓流イベントの取材、歴史人物解説記事の執筆などに取り組んできました。現在は韓流サイト『ロコレ』で企画・取材・執筆・編集を精力的に行っています。韓国ドラマ以外の趣味は居酒屋めぐり、温泉探訪、妖怪研究などです。

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