Netflix『素晴らしき新世界』で主役のイム・ジヨンが扮したのは、朝鮮王朝時代の国王の側室だった姜禧嬪(カン・ヒビン)である。かつては国王から寵愛を受けたが、冷たく嫌われて死罪となった。当時は典型的な悪女と称された。その姜禧嬪がタイムスリップして300年後の現代韓国で無名の女優シン・ソリの身体に入り込んだというのが、『素晴らしき新世界』の序盤の展開だった。
ここで一番気になるのは、名前からしても姜禧嬪は「伝説の悪女」をモデルにしているのではないか、ということ。もちろん、それは張禧嬪(チャン・ヒビン)のことだ。そこで、『素晴らしき新世界』の背景を知るためにも、張禧嬪の人物像を改めて振り返ってみよう。
張禧嬪(チャン・ヒビン)は21歳だった1680年に王宮に入って女官となった。第19代国王である粛宗(スクチョン)は、その類まれなる美貌にすっかり心を奪われた。そして彼女を側室に迎え入れた。これを機に、張禧嬪(チャン・ヒビン)の宮廷内における権勢は急激に拡大していった。
当時の国王には正妃だけでなく多数の側室が存在した。しかし、一向に男児が誕生する気配はなかった。世継ぎの不在に焦燥感を募らせる粛宗であったが、1688年についに待望の出来事が起きる。張禧嬪が男児を産んだのである。
粛宗の歓喜は計り知れなかった。彼はすぐさま、この赤子を次期王位継承者に定めた。粛宗の愛情を独占した張禧嬪は、1689年にはついに正妃の仁顕(インヒョン)王后を平民の身分へ追放することに成功する。こうして彼女は晴れて一国の王妃へと上り詰めたのである。
しかし、権力を握った彼女の態度は次第に横柄になっていく。血縁者を朝廷の要職に就かせ、専横の限りを尽くした。
とはいえ、彼女の栄華は短命に終わる。国王の寵愛が、新しく側室に入った淑嬪・崔氏(スクピン・チェシ)へと移ってしまったからである。
自らの地位に焦りを感じた張禧嬪は、新たな側室に対して執拗な嫌がらせを繰り返した。
こうした振る舞いに対し、粛宗も次第に疑念の目を向けるようになる。ついに1694年、粛宗は野に下っていた仁顕王后を再び王妃として宮中に呼び戻した。同時に、張禧嬪は元の側室へと引きずり下ろされたのである。
この処分に激しく恨みを抱いた彼女は、配下の女官たちを使って王妃の動向を監視させた。さらに、復位した王妃に呪詛をかける邪悪な儀式を執り行い続けたのである。その後、1701年に仁顕王后は病魔に侵されてこの世を去る。張禧嬪はこれで再び王妃に復帰できると期待した。しかし、彼女が密かに呪術を用いていたという事実は、淑嬪・崔氏の口から国王へと露見した。怒った粛宗は、張禧嬪の弁解に耳を傾けず死罪を宣告した。
こうして、己の野心のために宮中を混乱させた張禧嬪は、世を恨みながら息を引き取っていった。
以上が張禧嬪の人生だった。『素晴らしき新世界』でイム・ジヨンが演じた姜禧嬪は、この「希代の悪女」をモデルとしてキャラクターが作られたかもしれない。
文=康 大地(こう だいち)
写真=SBS
ハン・ヒョジュ主演『トンイ』で描かれなかった「粛宗と張禧嬪の出会い」とは?

