お目当ての民家に着くと、ジェファンさんは中庭に入り、「いらっしゃいますか」と声を掛けた。最初は返事がなかったのだが、もう一度大きく叫ぶと、中庭の奥から「いますよ」という声が返ってきた。
ハルモニとの会話
「よかった。ハルモニはいましたね」
ジェファンさんがそう言ったとき、オレンジのシャツと青いスラックスを着たハルモニが現れた。派手な出で立ちなのだが、素直に若々しいといった印象を持った。両手が泥だらけになっているのは、ずっと庭いじりをしていたからだろう。
「どんな御用?」
ハルモニは首をかしげていたが、私が日本から来たと知ると、途端に親しみやすい笑顔を見せた。
「よく来たね。私のダンナさんは昨年亡くなったけど、昔10年くらい日本に住んでいたことがあるのよ。日本の話をよく聞かされましたよ。これも何かの縁だね」
そう語るハルモニの写真を撮りたいと思った。ハルモニの両手は泥だらけだから固辞されるかなとも思ったが、すんなり承諾してもらい、笑顔のポーズまで作ってくれた。愛嬌がほとばしっている。
しばらく縁側に腰掛けながら、ハルモニとお喋りをした。
「この家はね、今は部分的に改装してあるけれど、建ってから200年は経つわよ。このあたりでは一番古いはず。『春のワルツ』のユン・ソクホ監督がぜひ撮影に使いたいということだったから、私は喜んで使ってもらったの。もちろん、謝礼もいただいたわよ。でも、その金額は内緒。どうしても、って言うなら、教えてあげてもいいけど」
お茶目にふるまうハルモニ。「どうしても」というわけではないので、謝礼の金額は聞かないことにした。意外とハルモニは話したかったのかもしれないが……。
「何を作っていたんですか。熱心に土をいじっていたみたいですけれど」
「私はこう見えても忙しいのよ。花を植えたり、雑草を抜いたり……。ところで、隣の家も見たの?」
「隣の家というと……」
「映画の『西便制』(ソピョンジェ)のロケに使われた家なのよ」
「そうだったんですか。『西便制』は本当にいい映画で、私は何回も見ましたよ」
「どういうわけか、このあたりは撮影によく使われるのよね。何がいいのか、よくわからないけれど」
そう言って、ハルモニは不思議そうな顔をした。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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