康熙奉の「韓国に行きたい紀行」済州島7/本土から移ってきた人

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李仲燮(イ・ジュンソプ)通りには、瀟洒な外壁を持った平屋のカフェがあった。ポプラを意味する「ミルナム」と言う店名。入ってみたかったが、営業が夕方からだったので、一度ホテルに戻ってから、夕食後に再び出掛けてみた。

李仲燮記念館の展示物の一つ




健康茶を飲む

店内は調度品が民芸調で統一されていて、落ちついた雰囲気だった。20人以上入れそうな広さだったが、先客は誰もいなかったので、よけいに広く感じる。私が端の席に座ると、奥から30歳前後の女性がメニューを持って出てきた。穏やかな表情の彼女には、芸術家の卵に感じるようなひたむきさがあった。使われている身ではなく、若いけれど店の主人に違いない。
壁に「健康茶」を大々的にアピールするポスターが貼ってあったので、私は迷わずそれを注文した。さらに、好みのクラシック音楽をリクエストできるということだったので、モーツアルトの交響曲41番「ジュピター」を頼む。間違って交響曲40番が掛かってしまったが、それはご愛嬌というところか。やんわり指摘すると、彼女は恥ずかしそうにかけ直した。
聴き入っていると、「健康茶」が運ばれてきた。かなり苦かったが、良薬は口に苦し、と思えば味わいも深い。どんな材料が入っているのか気になったので聞いてみると、女性は材料名を一つずつ歌うように挙げていく。




なつめ、枸杞(くこ)の実、葛根、生姜、桔梗、当帰、甘草、梨、りんご……。
聞いているだけで、からだから活気がみなぎってきそうだ。ずっと酒を飲みすぎていたので、こういう健康茶は身体の浄化に役立つに違いない。
私が日本から来たことを告げると、女性は歓迎の意思表示として名刺を差し出した。そこには「キム・チョスク」という氏名が書かれてあった。
チョスクさんは、日によく焼けていて、平べったい鼻が印象的だった。北方系か南方系かと言われれば明らかに後者で、済州島でよく見かける顔だちである。ふんわりとした茶系のワンピースも済州島の雰囲気に合っている。てっきり地元の人かと思ったら、済州島の風景に惹かれて本土から移ってきたのだと言う。
「おっとりした性格がこの島によく合うんですよ」
そう言って微笑んだ。
それから彼女は、「ぜひ書いてください」と店内に備え付けのノートを持参してきた。
開いてみると、ハングルの中に日本語も混じっていた。ただそれだけのことなのだが、なんだかうれしかった。
(次回に続く)

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

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