康熙奉の「韓国に行きたい紀行」済州島2/アワビの刺身

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大きな声では言えないが、私は気も弱いし、疑い深い。まず、「今そこで採ってきた最高のもの」というのが怪しい。そんな新鮮な上物は真っ先に西帰浦(ソギポ)の高級店に持ち込むのではないか。滝を見に来た観光客にパッと出すだろうか。そう思うと、どうしても相手の言葉を額面通り受け取れない。

岩場に露店が出ている




焼酎を飲みながら

一応、お勧めアワビの値段を聞いてみた。6万ウォンだそうだ(以後、1ウォンを0・1円に換算。6万ウォンは6000円となる)。予想をはるかに超えていた。
上目遣いに長老の顔を見た。笑っている。目以外は……。
どうする? 買うか、買わないか。
シェイクスピアの戯曲じゃないけれど、心底から迷っていた。
何よりも、買わなかったときの、長老の再度の豹変ぶりが怖かった。
耳元には、滝の水しぶきの音がたえず聞こえてくる。それが、いかにも催促の声のように聞こえてきた。
ようやく覚悟を決めた。生唾を呑み込みながら、細い声で言った。
「あの……、2万ウォンのアワビを……」
その瞬間、長老の顔が一気ににやけた。本当に、目も笑ったのだ。
小さい奴だとあきれたのか、と思ったが、そうでもないらしい。長老はたらいの中を見渡して、ヒョイと一つのアワビを取り出し、まないたの上で手際よくさばくと、白い皿に乗せて私に手渡してくれた。その動作には私に対する好意すら漂っていた。




堅実な奴だと評価してくれたのかもしれない。「観光地では口八丁手八丁でいろいろなものを売りつける商売人がいるけど、そんな者に惑わされないで堅実に飲み食いをしろ」と私に無言で語りかけてくれたのかもしれない。
私は焼酎も頼み、2万3000ウォン(2300円)を払った。
海女さん3人をしっかり正面に見据える岩場に腰を下ろして、焼酎を飲みながらアワビの刺身を食べた。固くてコリコリしていて容易に噛み切れないが、口の中に潮の香りが満ちて、舌に独特なヒンヤリ感が漂う。うまく噛み切ると、コロッと身が裂けていき、あっさりした味わいが舌に残る。この食感の良さがアワビ人気の秘訣か。
アワビの刺身には肝も付いていた。食べてみると、苦みがなく、甘味すら感じられた。このあたりはサザエの肝とは違った。
ツマミが旨いから焼酎もよく進む。「ありがたい」という言葉が自然と口から出た。誰に感謝するわけでもない。とにかく、「ありがとう」なのだ。
私の他にも、多くの観光客が海女さんのそばに集まり始めた。みんながいろいろ注文していたが、アワビを食べている人はおらず、タコ、サザエ、ホヤなどが入った盛り合わせが多かった。韓国の人はホヤが好きで、新鮮なものは本当に美味しい。




さらに、6人の中年男女のグループが来た。3万ウォンの盛り合わせを注文しようとしたら、海女さんの「人数が多いのだから、最低でも4万ウォンのものにしないと、満足できないよ」という声に押され、中心格の男性が言われる通りにしていた。
けれど、グループの中の女性は渋い顔をしていた。予算オーバーが気に入らないらしい。男性はどうしても見栄を張るが、女性は現実的だ。その点を海女さんもよくわきまえていて、男性の観光客だけに声をかけていた。非常にわかりやすいと言える。
そのうち、修学旅行の中学生たちが大挙して滝に押し寄せてきて、海岸は大変な賑わいとなった。私は焼酎をゆっくり飲みながら中学生たちがはしゃぐ姿を微笑ましく見ていた。4月の風が心地よい。名所の周辺はどこも菜の花が満開で、済州島は一年で最も美しい季節を迎えていた。
(次回に続く)

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

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