第5回/青山島の夕陽
韓国南西部の莞島(ワンド)から船で45分の青山島(チョンサンド)。ドラマ『春のワルツ』で有名になった島だ。私(康熙奉〔カン・ヒボン〕)は、キム・ジェファンさんが運転するタクシーで、島をグルリと回った。
『西便制』の名場面
キム・ジェファンさんが案内してくれたのは、藁葺き屋根の古い家だった。ここは、1992年に制作された映画『西便制』で撮影に使われた民家だった。『西便制』は日本で『風の丘を越えて』というタイトルになっている。
パンソリという朝鮮半島伝統の謡曲を歌う旅芸人の話で、パンソリを上達させるために父親が娘を盲目にさせてしまうという悲話が織り込まれていた。
旅芸人の親子3人が、地方の誰も通らないような小道で、「珍島アリラン」を歌いながら陽気に踊るシーンが忘れられない。貧しい日々の中で必死に生きている3人が、束の間に共有した家族の絆。その喜びが映像の中ににじみでていた。
そのシーンを撮影した場所も青山島の田舎道だというので、ジェファンさんに案内されて、同じような小道を少し歩いてみた。低い石垣で仕切られた細い道がくねくねと続いている。それを見ていると、まるで『西便制』の名場面がフラッシュバックのように甦ってきた。
遠くに目をやると、上にいくに従って緑の色合いが変わる段々畑が見える。ありふれているようで、どこでも見られない風景。それは淡い水彩画のようであり、いつまで見ていても飽きることがなかった。(ページ2に続く)