康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島15/霧で欠航

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宿泊した翌朝は、午前6時半に出るフェリーで島を離れようと思っていた。6時10分に外に出ると小雨が降っていて、あたりは霧で霞んでいる。「もしや」と思って乗船券売場へ行くと、窓口には誰もいなかった。そばに立っていた男性に聞くと、船は欠航だという。

霧が深かった




霧の中の風景

「霧が晴れないかぎり船は出ない」
そう言われてしまえば、腹をくくって、あとは霧が晴れるのを待つしかない。待合室では、スナック菓子を仲良く食べている夫婦、朝のテレビドラマを食い入るように見ている30代女性の2人連れが、いつ出るかわからない船を気長に待っていた。
しばらく待合室にいたが、雨だけはやんだので、外に出て岸壁に佇みながら霧にけむる海を見た。
小さなエンジン音を響かせて霧の中から一艘の小船が現れた。その船には海女さんとその夫と思われる男性が乗っていて、大量のワカメが積んであった。この霧の中でも夫婦で仕事に精を出している……そう思うと、冷たい海にもぐる海女さんがとてもけなげに思えてきた。
背後で足音がしたので振り向くと、霧の中から1人の女性が忽然と現れた。よく見ると、なんとラーメン作りの名人ではないか。相変わらずの仏頂面で、どこかへ急いでいる様子なので、興味をそそられて後を付けてみたら、急に路地へ入った。急いでその路地へ行って見たが、もう姿が消えていた。ふっくらした体型にもかかわらず動きは素早い。




<どこへ行ったんだろ>
あたりを見回しているうちに、ようやく我に返った。怪しげな行動をしている自分に気づき、そそくさと来た道を戻った。
再び、岸壁に立って霧の中の風景を見る。港の中はまったく波がなく、静かな海面を見せていた。そんな静寂を時折破って、小さな船が港に帰ってくる。その船が作る幾重もの波紋が、ぶつかり合いながら不規則な造形を作る。ときにはそれが人の形のようになったりして、見ていて飽きなかった。
黄色い合羽を着て釣りをしている人のそばに寄ってみると、海中にいる10センチほどの魚がはっきりと見えた。それでもなかなか釣れない。釣り人はイライラしていたが、私は心の中で「まだ年季が足りないな」とつぶやいた。気分はまるで仙人である。
相変わらず霧は深く、うっすらと山の輪郭が見えそうになることもあるが、次の瞬間にはもう何も見えなくなる。霧も煙のように動いているのだ。まるで自分の心情をうつしているかのように……。
霧と自分を重ね合わせるのも、現実に今、私が人生の深い霧の中に紛れ込んでいるからかもしれない。
(次回に続く)

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

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