康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島14/田舎に暮らすこと

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港近くの旅館に泊まった。韓国の旅館は一般的に素泊まりなので、食事は外の食堂へ出かけることになる。港の周辺を散歩しながら、水槽の中の魚が最も生きがよく見える食堂に入った。50代の夫婦が切り盛りしている店で、特に奥さんがてきぱきと動いていた。

青山島の港の風景




故郷に帰りたい

旅に出て一番多く会うのは、働いている人である。中でも、人がキビキビと働いている姿を見ていると気持ちがいい。
私はメニューをしばらく見たあとで、アワビのお粥を注文した。これは、韓国南部の海沿いや済州島などに多い料理である。アワビの身と肝を煮込み、ゴマ油も入っている。こってりした料理だと思われがちだが、案外あっさりしていて味わい深い。特大の器に入ったアワビのお粥を食べて、私は韓国の南の島に来ていることをしみじみと実感した。
十分に満足して旅館に戻り、夜は部屋で静かに過ごした。ソウルの旅館だと、隣から怪しげな声が聞こえてきて眠れなくなることがあるが、青山島の旅館は窓を開けても聞こえてくるのは潮騒のみ。健全すぎて涙が出てくるほどだった。
<俺は、この島で暮らせるかな>
自問自答していて、ふと思い出したのがイソップ物語の「田舎のネズミ、都会のネズミ」という話。こんな内容だ。




田舎のネズミと都会のネズミが仲良くなった。都会のネズミは田舎のネズミに誘われて畑に行った。けれど、食べられたのは麦の屑ばかりだった。
都会のネズミは言った。
「君の暮らしは惨めだね。都会においでよ。美味しいものがたくさんあるよ」
田舎のネズミは喜んで都会へ行った。確かに、見たこともないような御馳走が人間の家にあった。早速、チーズを食べようとしたとき、その部屋に急に人間が現れたので、田舎のネズミは一目散に逃げた。ほとぼりがさめた頃、今度は乾燥した無花果を見つけたので、それを食べようとしたら、またもや人間がやってきて、田舎のネズミは大急ぎで逃げた。たまらずに、田舎のネズミは言った。
「君はこのまま都会にいなよ。僕は田舎に帰る。ここは怖すぎるよ。僕は安心して麦の屑を食べたいんだ」

東京の下町で育った私は、20代のとき、信州で暮らしたいと思っていた。田舎暮らしがあこがれだったのだが、実際に実行していたら、どうだっただろうか。現実にぶつかって、早々と退散していたに違いない。




一方、ジェファンさんは、たとえ都会に出ても結局は故郷に帰ってくるだろう。「夜が真っ暗になるとしても、安心して暮らすことが一番なんだ。星も、とってもきれいだし……」と言いながら。
私はやっぱり「都会のネズミ」。ビクビクしながらでも、夜のネオンに囲まれて生きていかなければならない。
(次回に続く)

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

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