康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島4/ラーメンを作る名人

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私が注文したのはラーメンだけだったが、テーブルにはキムチや焼き魚が出ていた。焼き魚は先客が食い散らかしたものなのに、アジュンマは片づける素振りを一向に見せなかった。それで了解した。焼き魚は客が次々とつつくために残してあるのだ。

船の上から青山島が見えている




哀惜の念

おおらかというか、衛生管理を無視した大胆なサービス品だ。さすがに、私は箸を付ける気にはならなかったが……(ちなみに、コロナ禍が起きる前の話です)。
このあたりは、ひ弱すぎる。無人島に流されたら一巻の終わり。サバイバルに生きられない男なのだ。そんな自虐的な男の前に、ひと段落したアジュンマはどっしりと腰をすえて、ネギの根っこを取る作業を始めた。黙々と次の仕込みに取り掛かっている彼女の前で、私はまだラーメンを食べている。
たかがラーメンと言うことなかれ。グルメ情報に踊らされて並の韓国料理をありがたく頂戴するのはもう疲れた。それより、離島に行く小さなフェリーの中で、麺がなくなっていくことに哀惜の念を持つほどに愛しいラーメンを作る名人がいたことに頭が下がる。
湯気が眼鏡を曇らす。どんぶりの中が見えにくい。そのうち、箸を動かしても引っかかる麺がなくなる。そのときの心細さといったら……。




考えてみれば、このインスタントラーメンのおかげで、どれだけ多くの人が飢えと寒さをしのいできたことか。
大学時代、安アパートに住む私の学友は泥棒に入られて残り少ない現金を盗まれたが、それから1カ月間、1日3食ともにインスタントラーメンで苦境を脱した。
「ラーメンだからこんなに何回も食えるんだよ」
さすがに頬はこけていたが、しっかり生きていた。それもインスタントラーメンのおかげだった。
特に、韓国での普及は本家の日本を上回っているかも。コンビニには熱湯がいつも常備されていて、併設されたカウンターでカップラーメンを食べている人が大勢いる。また、鍋物や炒め物にインスタントラーメンを入れるのも、今や韓国料理の定番になっている。
(次回に続く)

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

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