莞島(ワンド)から青山島(チョンサンド)に行く船は小さなフェリーだった。済州島から乗ってきたフェリーと比べたら、マグロとイワシほどの違いがあった。それでも、甲板の中央には大きな部屋があって、その座敷で大勢の乗客がそれぞれにくつろいでいた。
ラーメンの絶妙な味
船内をまわりながら、どんな人たちがいるのかを見ていた。高校生が圧倒的に多い。他には、女性グループの旅行客、若い男女のカップルが目につく。グルリと見渡したところ、一人で所在なさそうにしているのは私だけだった。
高校生たちの多くは、本を開いて勉強していた。
こんな船の中でも熱心に勉強するとは感心である。時間帯からいっても、莞島(ワンド)の高校に通っている青山島の少年や少女だろう。島に生まれたことを悔やむことなく、自分の未来を明るく築いていってほしい……なんて、俺はいつから島の長老になったのか。
風に吹かれたくなり、部屋を出て船尾のデッキに立った。
広い海のかなたに、小さな島影がいくつも重なって見えている。その一つひとつに人間の暮らしがある。
一体、どんな人たちが住んでいるのだろうか。
ふと、純朴な島の娘の笑顔が浮かんできた途端、いい匂いが漂ってきて現実に引き戻された。横に小さな食堂があり、匂いに誘われて入ってみたくなった。4人も入れば一杯の食堂だが、ちょうど先客の3人連れが出るところだった。
50代でちょっと太めのアジュンマが、一人で切り盛りしている。前の3人の客はみんなラーメンを食べたらしく、そのドンブリが残っていた。アジュンマが片付け始めたので、私もラーメンを注文してみると……。
卵と長ネギが入ったラーメンは、絶妙な味わいだった。韓国の食堂で出されるラーメンはインスタント物ばかりだが、それがどうすればこれほど旨くなるのか。私は、目の前のアジュンマを「ラーメン作りの名人」とひそかに名付けた。無愛想ではあったが、無駄口をたたかず、自分のすべきことに専念していた。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島2/ドラマ『海神』の舞台
康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島4/ラーメンを作る名人