韓国ではインスタントコーヒーを「こんなに砂糖を入れてどうするんだ」というくらい甘くして飲むが、そのときの男性は極端だった。あれでは砂糖入りコーヒーではなく、コーヒー入り砂糖湯である。甘いものがよほど好きなのだろうが、そのわりに痩せ型だった。趣味は、ジョギングとウェイト・トレーニングかもしれない。
漢拏山の頂上は見えない
やがて出航30分前となり、改札口が開いた。修学旅行の中学生や団体の中高年が一斉に改札口に群がる。驚いたのは、栄養ドリンクを飲んでいた警官が切符切りをやっていたことだ。人手不足を案じてのボランティアか、それとも、切符を切りながら怪しい奴を見つけようというのか。その意図をはかりかねたまま、私は船上の人となった。
船はかなり大型のフェリーだった。船尾のデッキに佇み、漢拏山(ハルラサン)の方向をずっと見ていたが、快晴なのに雲がかかって頂上がまったく見えなかった。
不思議なことなのだが、島の北側から漢拏山を望むと、頂上が見えたためしがないのである。南側からならいつもよく見えるのに、北側からだと漢拏山が隠れてしまう。
そんなわけで、私はいつまで経っても北側から見た漢拏山の頂上を知らない。
汽笛が鳴ってから、船はゆっくりと港を離れて行った。これから、朝鮮半島南端の莞島(ワンド)まで向かう。
船尾からずっと済州島を見ながら、旅先で出会った人たちを思い出していた。
島がどんどん小さくなって最後に見えなくなると、あとは見渡すかぎりの海となった。私は船室に入り、少し寝ころがろうと思った。
二等客室では、間仕切りのない広い大部屋がいくつか並んでいる。客の中で特に目立っていたのは、中年女性の団体だった。みんな一緒に黄色のサンバイザーをかぶっているので、すぐに同じグループだとわかる。
韓国各地の観光地で中年女性の団体客をよく見かけるが、かならず共通のものを身につけている。黄色のサンバイザーだったり、赤のベストだったり、黄色と赤が混じったウィンドブレーカーだったり……。
共通色は赤か黄色。そんな人たちが大挙して動くのだから、とにかく目立つ。この船の中でも、黄色いサンバイザーの一団が最大勢力になっていた。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン・ヒボン)