「ありがたい」という気持ち
アワビの刺身には肝も付いていた。食べてみると、苦みがなく、甘味すら感じられた。このあたりはサザエの肝とは違った。
ツマミが旨いから焼酎もよく進む。「ありがたい」という言葉が自然と口から出た。誰に感謝するわけでもない。
とにかく、「ありがとう」なのだ。
私の他にも、多くの観光客が海女さんのそばに集まり始めた。みんながいろいろ注文していたが、アワビを食べている人はおらず、タコ、サザエ、ホヤなどが入った盛り合わせが多かった。韓国の人はホヤが好きで、新鮮なものは本当に美味しい。
さらに、6人の中年男女のグループが来た。2万ウォンの盛り合わせを注文しようとしたら、海女さんの「人数が多いのだから、最低でも3万ウォンのものにしないと、満足できないよ」という声に押され、中心格の男性が言われる通りにしていた。
けれど、グループの中の女性は渋い顔をしていた。予算オーバーが気に入らないらしい。男性はどうしても見栄を張るが、女性は現実的だ。その点を海女さんもよくわきまえていて、男性の観光客だけに声をかけていた。
そんな様子を傍目(はため)で楽しみながら、正房瀑布を見ながら焼酎を飲み、アワビを食べる。たまらなく幸せを感じた。
(第2回に続く)
文=康 熙奉(カン ヒボン)
出典=「韓国のそこに行きたい」(著者/康熙奉 発行/TOKIMEKIパブリッシング)