焼酎を飲みながら
ようやく覚悟を決めた。生唾を呑み込みながら、細い声で言った。
「あの……、2万ウォン(約2千円)のアワビを……」
その瞬間、長老の顔が一気ににやけた。
本当に、目も笑ったのだ。
小さい奴だとあきれたのか、と思ったが、そうでもないらしい。
長老はたらいの中を見渡して、ヒョイと一つのアワビを取り出し、まないたの上で手際よくさばくと、白い皿に盛って私に手渡してくれた。その動作には私に対する好意すら漂っていた。
堅実な奴だと評価してくれたのかもしれない。「観光地では口八丁手八丁でいろいろなものを売りつける商売人がいるけど、そんな者に惑わされないで堅実に飲み食いをしろ」と私に無言で語りかけてくれたのかもしれない。
私は焼酎も頼み、2万3000ウォン(約2300円)を払った。
海女さん3人をしっかり正面に見据える岩場に腰を下ろして、焼酎を飲みながらアワビの刺身を食べた。
固くてコリコリしていて容易に噛み切れないが、口の中に潮の香りが満ちて、舌に独特なヒンヤリ感が漂う。うまく噛み切ると、コロッと身が裂けていき、あっさりした味わいが舌に残る。
この食感の良さがアワビ人気の秘訣か。(ページ4に続く)