人間には適応力がある
今でも、鉄原郡の荒涼とした風景を思い出す。「荒涼」と表現したのは、人が住んでいない地域が多いということで、地方でよく感じるような「ぬくもり」がなかったからである。
こういう地域で兵役をつとめるというのは、タフな精神力が求められるかもしれない。ただでさえ、兵役に入ると社会から孤立してしまったという疎外感を持つが(兵役経験者の多くがそう語っていた)、鉄原郡にいると、一層その気持ちが強くなるだろう。
しかし、人間には適応力というものが備わっている。海兵隊で厳しい訓練に明け暮れた俳優のヒョンビンもこう語っていた。
「1人取り残されたような状況から、どう抜け出すか。心の準備はしてきたつもりですが、大変でした。でも、人間は状況や社会に適合できる動物だというじゃないですか。私もいろいろな状況に対応できるようになり、軍隊という囲いの中で何かを少しずつ会得しました」
実際にそこで軍務に励めば、芸能界の先輩であるヒョンビンの言葉に同意できる日が、ゴニルにもきっとくるに違いない。
どこで過ごしても、21カ月の兵役が待っている。鉄原郡の冬は特に厳しいが、その寒さに耐えることで得られるものも多いはずだ。それが、ゴニルが芸能界に復帰したときの強力な糧になる。
(文=康 熙奉〔カン ヒボン〕)