注目の記事 PICK UP!

韓国・南西岸への旅8「ウナギ鍋」

このエントリーをはてなブックマークに追加

 

黄色い軽トラックが国際書林の前で停まり、長身の青年が私を迎えにきてくれた。ていねいに礼を言って店を出ようとしたら、すでに女性は先ほどのように自分の世界に入って新聞を読んでいた。彼女の頭の中には、もう私の存在は影すらないかも。切り替えの早さは、惚れ惚れするほどだった。

堪能したウナギ鍋




初めての食感

軽トラックの助手席に座ると、青年は「すぐですから」と言ってアクセルを踏んだ。横顔は精悍で、くっきり見える頬骨が意思の強さを表していた。書店の女性の息子に違いはないが、書店だけでは親子が食べられないので、別な仕事をしているのだろうか。
でも、どんな仕事?
愛想もよく話しやすそうな青年だったので、これから根掘り葉掘り聞こうと思ったら、あっさりとヘグン食堂に着いてしまった。それも、旅客ターミナルの真ん前である。なんだか、ふりだしに戻ったような、消化不良のような気分……。
青年に礼を言ってから食堂に入った。すでにウナギ鍋の注文は通っているようで、店のアジュンマは私を座敷の窓側の席に案内すると、何も聞かずにそのまま厨房に戻ってしまった。
座敷にいる他の客は、中年のカップルが2組だけ。やはりグツグツと煮立った鍋を食べている。その匂いが漂ってくるだけで、もう腹が鳴り出した。それが何度か続いたあと、アジュンマが大きな盆に料理をたくさん載せてやってきた。




アッという間に、膳の上は皿に盛られた料理でいっぱいになった。キムチ類は白菜、カクテキ、大根の細切りの3種類、野菜のあえものはニラ、豆もやし、青とうがらし、ふき、青菜の5種類、塩辛はイカ、タラの内臓の2種類、それに、キュウリ、ノリ、小魚が加えられていた。それらをおかずにしてご飯を食べ始めたところで、煮立ったウナギ鍋が運ばれてきた。
汁はとろとろになっている。早速、スプーンですくって汁を飲んだが、あっさりしていながらコクがある味わい。ネギや大根と一緒にウナギもじっくり煮込まれていて、その身を口に運べばすぐに溶けていくような食感だった。骨も柔らかくなっているので、そのまま噛み砕ける。初めての食感が舌に心地いい。
何よりも、ウナギ、というのがうれしい。

文・写真=康 熙奉(カン・ヒボン)

韓国・南西岸への旅1「済州港から始める」

韓国・南西岸への旅2「いよいよ出航」

韓国・南西岸への旅9「青山島に行くフェリー」

関連記事

  1. 康熙奉の「韓国に行きたい紀行」済州島3/流刑の島

  2. 韓国・南西岸への旅17「アワビのお粥」

  3. 夏こそ行きたい!韓国南部の旅4

  4. 追憶の済州島紀行5「三姓穴の穴が見たい」

  5. 康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島10/『春のワルツ』で使われた家

  6. 康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島2/ドラマ『海神』の舞台

  7. 康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島18/地方での喫茶店運営

  8. 康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島19/帰りのフェリー

  9. 康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島17/のんびりした喫茶店

PAGE TOP