貝殻細工はどれも目を奪われるほどの出来ばえで、玄関で立ち話をしていた40代の女性の美意識が十分に感じられた。『春のワルツ』でも、貝殻細工は主人公の男女が幼い頃を思い出す重要な小道具になっている。
古い時代の風情
私もせっかくの機会なので貝殻細工を一つずつじっくり見たかったのだが、女子高校生の勉強を邪魔しているという意識が先立ってしまう。
別に彼女が嫌な顔をしたわけではなく、気持ちよく挨拶もしてくれていた。しかも、ジェファンさんはしょっちゅう客をここに連れてくる様子だった。
それにしても……。
見学料を取るわけでもなく、貝殻細工を販売しているわけでもない。自分で作った数多くの貝殻細工を棚に飾ってあるだけだ。それを、ブラリとやってきた旅行者に気さくに見せてくれるという、この家の度量に感心した。
嫌な顔一つせずに招き入れてくれた貝殻細工の作者、彼女と立ち話をしていた人たち、勉強していた女子高校生。誰もがおおらかな雰囲気を持っていた。
そのおおらかさは、何によってもたらされているのか。美しい海岸線、青々とした麦畑、大樹が生い茂る山、人々が寄り添いながら暮らしている集落……。青山島では見るものすべてがどこか懐かしい。
「ここに来る人がよく言うんですよ。古い時代の風情をこれほど残している場所も珍しい、と。この島は、私が小さい頃とほとんど変わっていないんですよ。それが訪ねてくる人にやすらぎを与えるようですね」
ジェファンさんの言葉が心に温かく響く。すっかり気分がよくなったところで、私たちは、『春のワルツ』の中で最後に主人公の男女が住んだ家に向かった。
『春のワルツ』ハウスと名付けられていて、観光客に一般公開されている。鮮やかな色彩感覚にあふれた家で、私が訪れた日には案内役の女性もいて、各部屋の成り立ちなどを説明してくれた。
2階のベランダからは、一面の菜の花畑が一望できた。風を浴びて、無数の菜の花が波のようにゆらゆらと揺れている。黄色い花には人を浮足立たせるような高揚感があるが、今目の前の菜の花畑を見ていると、「くよくよしないで、自分がやりたいことをやってみろ」と励ましてくれるような風情だった。
そのずっと先まで見通すと、陽光に輝く海が見えた。黄色の花と青い海……その調和が静かに心にしみ通る。この風景はまさに『春のワルツ』で見た通りの美しい世界だった。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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