康熙奉の「韓国に行きたい紀行」済州島9/タクシーで済州港に向かう

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本土へ行く船は、済州島の北側にある済州港から午前7時50分に出航する。私は6時頃に西帰浦のホテルを出てタクシーに乗った。旅先でタクシーを利用する場合、運転手さんとの相性が大事である。話しやすい人ならば、地元の様子を聞くのに最適な時間を得られるし、愛想がない人ならば、車窓からただ景色を楽しんでいればいい。タクシー内の過ごし方は、すべて運転手さん次第で変わる。

済州港




運転手さんとの駆け引き

そのときの運転手さんは50代で、物腰が穏やかな人だった。渋い役者のように顔だちが端整で、品のよい白髪も好感が持てた。
<ロマンスグレーというのは、こういう人のことを言うんだろうなあ>
後部座席から運転手さんの後頭部を見ながら、素直にそう思った。
「空港ではなくて港でいいんですか」
運転手さんが丁寧に聞いてきた。
「ええ。船でのんびり莞島(ワンド)へ行こうと思っているんですよ」
「そりゃ、いいですね。船は何時の出発?」
「7時50分です」
「まだ1時間以上あるから十分ですね。ただ、たまに欠航があるから、ちょっと電話して聞いてみましょう」
運転手さんは、船が予定通り出航するかどうかを港に問い合わせてくれた。




「大丈夫です。船はいつも通り出ますよ」
そう言われて、いい運転手さんに当たったと喜んだ。
<世間話でもしながら向かえば、アッという間に港に着いてしまうだろう……>
そう思った矢先、雲行きが怪しくなってきた。天気が、ではなく、私と運転手さんの関係が……。
北へまっすぐ走っていた車が、西帰浦市街を抜けたあとの交差点で急に右折したのである。直進しなければならない道であり、そのことは持っている地図でも確認できた。
<船の時間まで、まだ1時間半以上ある。多少遠回りしても大丈夫>
運転手さんがそう考えたとしか思えなかった。
なんだか、ロマンスグレーがゴマ塩頭に見えてきた。楽しい世間話をするはずが、その気も失せてしまった。
北へ行かなければならないのに、東へ向かっている。どこまで遠回りするつもりなのか、とたまらず声をかけようとしたら、彼は私の動きを敏感に察知し、サッと左折して北に進路を変えた。ここでようやく私も、少し浮き気味だった腰を座席に落ちつかせることができた。




客として、こういうときの対応が難しい。遠回りを指摘しても適当に言いくるめられるのがオチだ。けれど、泣き寝入りも悔しい。その分岐点を私は3万ウォン(約3000円)に置いた。3万ウォン以内なら許容範囲なので黙って支払い、それ以上なら何がなんでもひと悶着起こす……。運転手さんのゴマ塩頭を見ながら、私はそう決心した。
「さあ、済州港に着きましたよ」
運転手さんの声に促されて後ろからドキドキしながらメーターを覗くと、「29800」を表示していた。3万をわずかに切る絶妙な料金……。
車を下りるとき、運転手さんは「よい旅をしてください」と愛想よく言った。その笑顔を見ていると、再び頭がロマンスグレーに見えてきた……。
(次回に続く)

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

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