俗に「朝鮮王朝3大悪女」という呼び方がある。10代王・燕山君(ヨンサングン)をそそのかして暴政の片棒をかついだ側室の張緑水(チャン・ノクス)、宮中の女官として悪行を重ねた鄭蘭貞(チョン・ナンジョン)、一介の女官から王妃まで上り詰めたが最後は死罪になった張禧嬪(チャン・ヒビン)……この3人が一応は悪女の典型になっているが、彼女たちの悪はまだ小粒で、私利私欲にまみれただけだ。
韓国時代劇の真骨頂
実は朝鮮王朝には、多くの民衆を不幸のどん底に突き落とした「ウラの3大悪女」がいる。
それは、義理の息子の12代王・仁宗(インジョン)を毒殺した疑いが濃い文定(ムンジョン)王后、ドラマ『イ・サン』の主人公になった22代王・正祖(チョンジョ)を毒殺した可能性がある貞純(チョンスン)王后、23代王・純祖(スンジョ)の正室で外戚政治の権化となった純元(スヌォン)王后の3人だ。
彼女たちこそが巨悪の元締めなのだが、それが可能だったのも摂政によって女帝のようにふるまうことができたからである。なお、鄭蘭貞と文定王后は『オクニョ 運命の女(ひと)』にもよく登場していた。
他にも、王宮の中には政治的な動きをする女性たちがいた。たとえば、王に取り入って陰謀をめぐらす側室がいたし、人を陥れて自らの出世を果たした女官もいたのだ。
このように、宮中には事件を起こす女性たちがあまりに多かったが、彼女たちは歴史の中に封じこめられているわけではなく、むしろ、韓国時代劇の重要人物として現代に甦ってくる場合が多い。
実際、朝鮮王朝を舞台にしたドラマのほとんどは女性が主人公になっている。張禧嬪の場合は、「企画に困ったら張禧嬪を出せ」と言われるくらいに何度でも時代劇に登場する貴重なキャラクターだ。
チャングム(長今)も同様で、彼女は『朝鮮王朝実録』に10カ所ほどの記述がある医女である。
そういう女性を全54話もある時代劇の主人公にして奔放に描くところに韓国時代劇の真骨頂がある。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化や日韓関係を描いた著作が多い。主な著書は「悪女たちの朝鮮王朝」「韓流スターと兵役」「いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史」「韓国ドラマ&K-POPがもっと楽しくなる!かんたん韓国語読本」など。最新刊は9月6日発売の「新版 知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物」
朝鮮王朝三大悪女の中で一番悪女でないのが張禧嬪(チャン・ヒビン)!