歴史に残った汚名
王を陰で動かす悪女として、張緑水は民衆や官僚たちから激しい憎悪を浴びるようになっていった。
それでも、彼女は誰の声にも耳を貸さなかった。王と虚飾に溺れた日々を過ごし、それが永遠に続くと錯覚していた。
しかし、暴君の悪政は長く続かなかった。
1506年、国を憂えた高官たちがクーデターを起こして、燕山君は王位を追われて流罪となった。
張緑水は斬首となり、その遺体はしばらく市中にさらされた。その遺体に向かって多くの民衆が唾を吐いて石を投げたという。暴政のせいで生活が苦しくなった恨みを露骨にぶつけたのである。
朝鮮王朝の歴史を見ても、張緑水ほど憎まれた女性は他にいないほどだ。
貧しい中でも善良な奴婢の妻であったならば、ここまで歴史に汚名を残さなくても済んだはずなのに……。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化と、韓流および日韓関係を描いた著作が多い。特に、朝鮮王朝の読み物シリーズはベストセラーとなった。主な著書は、『知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物』『朝鮮王朝の歴史はなぜこんなに面白いのか』『日本のコリアをゆく』『徳川幕府はなぜ朝鮮王朝と蜜月を築けたのか』『悪女たちの朝鮮王朝』『宿命の日韓二千年史』『韓流スターと兵役』など。最新刊は『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』。
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