水平線を赤く染める夕陽
ずっと孤独だったのだと思う。けれど、男はきっと言うだろう……誰のせいでもないよ、自らひとりぼっちになっちまったんだ。なにがあっても、辛抱していかなければならないだろう、と。
世俗的な幸せとは無縁かもしれないが、男の横顔を見ていると、孤独にじっと耐えている潔さが感じられた。
海の向こうには、まさに陽が沈んでいこうとしていた。水平線を赤く染める夕陽を見ていると、日本にいる家族の顔が浮かび、わずかばかりの郷愁に心がかすかに震えるようだった。
3時間近く島を案内してもらってから、再び港に戻ってきた。
タクシーのチャーター料金は5万ウォン(約5千円)で、妥当な金額だった。ジェファンさんの人柄のおかげで、青山島の印象はさらによくなった。
私は接客するときの彼の表の顔を見たにすぎないけれど、タクシーの中に2人だけで少しでもいれば、およそ相手の心の内は透けて見えるものである。相手の息づかいまで聞こえる密閉された空間は、心理学の教科書よりも人間について多くを教えてくれる。
仮に、ジェファンさんと一緒に飲み屋に行っても会話がはずまないだろう。彼は人の悪口は言わないだろうし、誰かの詮索もしないはずだ。沈黙が続き、気まずい思いも起こる。けれど、その沈黙は彼の誠実さの表れでもある。無理に話題を作って自分を主人公にせず、誰も傷つけない。そんな生き方が見えてくる。
「今度来たら、いつでも電話してください」
別れ際にそう言ったあとで、彼は「日曜日の午前中だけ駄目なんです」と付け加えた。理由は、欠かさず教会に行くからだという。最後まで、私が彼に感じた実直さは変わらなかった。(ページ4に続く)