『春のワルツ』の島
運転手さんは30代の男性で、優しい目をしていた。口調もていねいで、低い声で「どちらまで行かれますか」と聞いてきた。私は相性の良さを感じ、「景色のいいところを走ってください」と言った。青山島の甘いも酸っぱいもすべて彼に託したい、という気持ちになった。
「『春のワルツ』というドラマを知っていますか」
「ええ」
「それなら、撮影に使われた場所をグルリと回ってみましょうか」
「ぜひお願いします」
運転手さんは車を走らせると、「キム・ジェファンです」と名乗った。生粋の地元生まれだという。
私が「この島には何人くらい住んでいるの?」と聞くと、待ってましたとばかりに、青山島についての説明が始まった。
「島の面積は33平方キロメートルで、車で回っても1時間くらいです。小さい島なのに土地に起伏があって、300メートル級の山がいくつもあります。住民は3000人ほど。やっぱり過疎化で減っていますけど、私は離れる気はありませんね。ここにはタクシーが5台しかありませんけれど、最近は観光客も増えていて、結構忙しいんですよ」
ジェファンさんはそんな説明をしながら、運転席の横に取り付けた小さなモニターで『春のワルツ』の各場面を再現し、実際にそのシーンが撮影された場所に次々と案内してくれた。(ページ4に続く)