残念ながら刺身を断念
魚を見て回る度に、威勢のいいアジュンマから盛んに声を掛けられる。けれど、一人旅の途中に活魚を買ってもどうにもならない。
「大丈夫、ホラ、食べるところがあるから」
そう教えられて端を見ると、湯気がもうもうと上がっている。観光客が大勢で鍋を囲んでいるようだった。
<うまいだろうなあ>
鯛でも平目でも、刺身を堪能したあとに鍋でしめれば最高の食事だ。
けれど、1人で1匹さばいてもらっても食べきれない。大勢の団体客の中でポツンと1人で食事をするのも侘しい。自分の立場をわきまえているので、しばらく食堂の賑わいを羨ましげに見たあとで、踏ん切りをつけて外に出た。
すぐに、漁船がズラリと係留されている漁港に出た。このあたりは日本の漁村の風景と変わらない。波に応じて船が時間差で揺れている光景は、小学校時代の朝礼時のふぞろいな整理体操を思わせた。てんでばらばら、というのも、なんだか微笑ましい。
漁港の前の大通りを渡ると、そこは市場になっていた。細い道の両脇に、食料品の店が重なるように軒を並べている。魚と肉が入り交じった臭いにあおられて奥まで進むと、市場が尽きたところに小さな書店があった。
看板には「国際書林」と出ている。韓国では、名は体を表さない。あきれるほど大げさなネーミングが横行している。この書店もその一つか。小さな書店のどこが「国際」の名にふさわしいのかを確かめるために入ってみた。(ページ3に続く)