『冬のソナタ』の第18話として放送された場面の撮影が続いている。夕方にチュンサンとユジンが海岸近くの市場へ行くシーンが忘れられない。本当に二人は楽しそうに、残り少ない時間を楽しんでいた。
チュンサンの怒り
市場にいた二人。
チュンサンが食べ物を買いに行き、ユジンは約束した場所で待っていた。しかし、ある年配の女性に荷物を持ってほしいと頼まれて、その場所を離れてしまう。戻ってきたチュンサンはユジンがいないことに驚き、あわてて市場の人波の中で彼女を探す。
彼には、この旅がユジンとの最後の思い出、という気持ちがある。それだけに、余計にユジンがいないことにあせり、不安でいっぱいになる。それは、ユジンのいない毎日を早くも暗示する瞬間であった。
この場面は、NHKで放送された編集バージョンではカットされていた。しかし、NHKの四度目の放送で韓国オリジナル版の字幕バージョンを放送しているので、その中で見た人はかなり多いだろう。
ようやくユジンを見つけたチュンサンが、彼女に向かって珍しく怒る。
「僕がいなかったらどうするんだ……」
声を荒らげながらも、自分が去ったあとのユジンを心配している様子を、ペ・ヨンジュンはやりきれないほどの切迫感を持って演じていた。
そして、きわめつけの名場面。ユジンが寝たあと、深夜の海岸に1人立ったチュンサンは、ユジンとの思い出の品々を次々と海に向かって投げつける。
そのときのチュンサンの悲しみを、ペ・ヨンジュンは明日世界が終わってしまうかのように演じた。
感情表現という意味では、このときの演技がペ・ヨンジュンのキャリアの中で特に難しかったのではないか。
その後も、『スキャンダル』や『四月の雪』で感情の表し方が難しい演技があったが、すべてを考え合わせても、『冬のソナタ』で演じた深夜の海岸の場面にこそ、俳優ペ・ヨンジュンの真骨頂が現れていたように思える。
それは、多くのファンと共通する点ではないだろうか。だからこそ『冬のソナタ』の第18話は、ファンにとって忘れられない回になっているのでは……。
あのとき、ペ・ヨンジュンがチュンサンになりきって深夜の海に捨てた未練は、誰の心にもある、叶わぬものへの限りない愛着だった。
それさえも捨ててチュンサンは一体どうやって生きていくのか……劇中に入りこんだかのように、多くのファンの心配は尽きなかった。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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