韓国でのインスタントラーメンの普及は凄まじい。コンビニには熱湯がいつも常備されており、併設されたカウンターでカップラーメンを食べている人が本当に多い。また、鍋物や炒め物にインスタントラーメンを入れるのも、今や韓国料理の定番になっている。
デッキから海を見る
韓国のインスタントラーメンは日本のものとちょっと違う。固い食感が好きな韓国人に合わせて、麺はかなりシコシコになっている。作り方を比べると、熱湯の中に麺を入れてから3分ほど煮るのが日本、5分ほど煮るのが韓国。また、日本では火を止めてからスープを入れるが、韓国は麺と一緒にスープと薬味を入れる。しかも、そのスープが辛い。要するに、辛い味付けの中で5分もグツグツと煮込むのが韓国式なのだ。
韓国の食堂には、メニューの中にたいていラーメンがあるが、それは生麺ではなくインスタント。日本の食堂でインスタントを出そうものなら罵声を浴びそうだが、韓国ではそれが当たり前。むしろ、生麺を調理したラーメンになじみがない。
ソウルの繁華街でも日本スタイルのラーメン屋ができたことがあって、私も入ってみたが、料金が高いことが災いしてか、昼食どきなのにガラガラだった。やはり、韓国人にとってラーメンといえばインスタントなのだ。
そのラーメンを美味しく堪能したあとも、私はしばらく食堂の中で休んでいた。グルリと部屋を見渡してみる。目の前のアジュンマはラーメン作りが名人級だが、整理整頓は苦手のようだ。部屋の隅にはダンボールが雑然と積み上げられているし、棚に並んだ菓子類も種類がごちゃ混ぜになっている。
やがて、2人の小学生を連れた30代の母親が食堂に入ってきた。子供たちは「ラーメン、ラーメン」と叫んでいる。いよいよアジュンマの出番だ。私はそのまま食堂を出た。
再び、デッキから海を見る。風がやたらと強かった。そばにいた若いカップルが強風の中でお互いの手をしっかり握りあっていた。
女性の長い髪が風に揺れている。彼女は信頼しきった表情で、丸刈りに近い男性を見つめていた。髪型から推察すると、彼は兵役を終えたばかりかと思われた。2人にとって会えない日々が長く続いたことだろうが、寂しさと不安を乗り越えてようやく普通の恋人同士に戻った。その喜びが、握りあった手に込められている。
莞島(ワンド)から青山島(チョンサンド)まで約45分、うまいラーメンを食べ、紺碧の海を眺め、若いカップルを羨ましそうに眺めている間に着いた。
文・写真=康 熙奉(カン・ヒボン)