韓国の伝統的な思想と風土

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長く続いた朝鮮王朝時代、当時の人々は「人間が死ねば肉体は土に還(かえ)り、魂は天にのぼっていく」と考えていた。そのために、人が亡くなると土葬となり、ひんぱんに祭祀(チェサ)を行なった。

韓国では伝統的に土葬が採用されてきた




祭祀主義とシャーマニズム

祭祀では、命日と正月と秋夕(チュソク/お盆のこと)に祭壇に御馳走を並べ、亡き両親や祖父母の魂が地上に戻ってくる瞬間に対応した。
御馳走はそのための饗応なのである。
人々は祭祀を通して先祖への崇拝と敬慕を示し、子孫が無事に暮らしていけることを感謝した。
そうした祭祀主義の他に、各地方にはシャーマニズムが深く浸透した。
シャーマニズムとは朝鮮半島の北方から伝来した原始宗教であり、特殊な霊能を持った媒介人(ムーダンと呼ばれた)を通して、生者が死者の発する言葉を受け取るのだ。その儀式は「クッ」と称された。
今でも韓国の地方に行けば、「クッ」を通して願い事(子供の結婚や就職、身体の健康など)を成就させようと試みる人が多い。シャーマニズムは確実に年配の人々の一つの拠り所になっている。




祭祀主義にしてもシャーマニズムにしても、肝心なのは、肉体は消滅しても魂は永遠だということだ。「祭祀のときに先祖の魂が地上に下りてくる」「死者の言葉がムーダンを通して生者に伝えられる」という考え方が、現在の韓国の人々の死生観に影響を与えているのだ。
確かに、時代は変わってきた。
韓国ではクリスチャンが増えて、朝鮮半島の土着的な信仰と一線を画すようになった。なによりも、キリスト教徒は先祖崇拝につながる祭祀を一般的には行なわない。
また、土葬は広い墓地を必要とするという事情から、都会では火葬が奨励されている。火葬の場合は、「人が死ねば肉体は土に還る」という伝統的な考え方を実現できない。
加えて、社会生活の中での精神的な抑圧が強くなってしまった。
しがらみの多い人間関係、深刻な経済格差、北朝鮮との緊張激化、極端な序列社会……そうした複雑な抑圧要因によって精神が耐えられなくなり、感情的で突発的な死を選ぶ人も増えてきている。
狭い国土に5000万人が暮らす韓国では、朝鮮王朝時代のごとき一枚岩のような伝統的価値観が通用しなくなっているが、病気にしろ自殺にしろ世を去る人たちの心には「魂は永遠」という根本的な思想が残っているはずだ。




人間は住む土地の気候や風土の中で、伝統的な死生観に影響を受けてきた。韓国のような狭い国では、特にその傾向が強い。
「肉体は消滅しても魂は永遠に生きる」
韓国の多くの人が今もそう信じている。亡くなった人は、生きている人の心の中でいつまでも生き続けるのだ。

文=康 熙奉(カン ヒボン)

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