目の前に広がっているのは、美しい砂浜と青い海原だ。ときは2002年3月9日。この日は、江原道のチュアム海岸で『冬のソナタ』の撮影が進められていた。すでにこのドラマは韓国で社会現象を巻き起こすほど人気を博していた。
「永遠」を信じられる
手をつないで海岸を歩く若い男女がいる。チュンサンに扮したペ・ヨンジュンとユジン役を担うチェ・ジウだ。2人は本当の恋人同士のように仲むつまじく海岸でのひとときを楽しんでいる。
2人のそばにカモメが群れをなして近寄ってくる。もともとカモメが多い海岸なのだが、撮影用に助監督がイカの内臓を海岸にまいてあったので、それを目当てにさらに集まってきている。
そんなカモメたちに見守られながら、2人は海岸を走ったり、砂浜に寝ころんで空を見たり、突然近づいてきた小犬とじゃれたり……。
見ていても、心が休まる場面だ。この日に撮影された映像は、『冬のソナタ』の第18話として放送された。
ストーリーの上では、悲しみの連鎖の中で一瞬だけ癒しをもたらす珠玉の場面だった。ユジンはただうれしくてはしゃぐだけだが、チュンサンはユジンとの別れを決意して、切ない思いで彼女を見つめていた。
そのときのペ・ヨンジュンの演技が忘れられない。
昼間の海岸で、ペ・ヨンジュンはどこか遠くを見るような澄んだ目をしていた。潮風になびく栗色の髪が印象的だ。
ファンは自分をユジンに置き換えて、ペ・ヨンジュンと過ごす海辺のひとときを満喫していたのかもしれない。
恋する男女にとって、まばゆい海は、すぐにでも飛んで行きたい場所だ。そして、砂浜に並んで座り、黙って水平線を見ている。ただ、それだけでいい。2人は「永遠」というものを信じられる。
ファンが、あの海辺のシーンでペ・ヨンジュンの表情の中にキラリと見つけたのも、この「永遠」かもしれない。
はかなく消えるイメージの中に、かならず残る心象風景があるとすれば、それはまさにペ・ヨンジュンが見せた切ないまでの哀惜だった。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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