演出は暗示が巧み
松坂桃李の演技にも引き込まれた。
6月まで放送されていたドラマ『パーフェクトワールド』を見ていて彼の演技力に感心していただけに、この『新聞記者』でも松坂桃李の力量が十分にわかった。
何よりも、これだけの人気俳優でありながら政権の闇に切り込もうとする作品に主演するという心意気がいい。彼のキャリアにとっても、『新聞記者』は非常に重要な作品になったことだろう。
藤井道人監督の演出は暗示が巧みだ。
特に、人も職場風景も無機質な内閣情報調査室そのものが、政権とメディアが癒着した末に生じる不気味さを映し出していた。
杉原の上司(田中哲司が扮していた)が「日本の民主主義は形だけでいいんだ」といったニュアンスのセリフを吐くが、今の日本はその「形」すらも危うくなっている。
その中で、社会に問題を提起できる映画を作った制作陣に敬意を表したい。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化と、韓流および日韓関係を描いた著作が多い。特に、朝鮮王朝の読み物シリーズはベストセラーとなった。主な著書は、『知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物』『朝鮮王朝の歴史はなぜこんなに面白いのか』『日本のコリアをゆく』『徳川幕府はなぜ朝鮮王朝と蜜月を築けたのか』『悪女たちの朝鮮王朝』『宿命の日韓二千年史』『韓流スターと兵役』など。最新刊は『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』。