第8回/木浦の屋台
韓国南西部を代表する港町の木浦(モッポ)。とても好きな町だが、KTX(高速鉄道)で木浦駅に着いたのは夕方だった。まず、駅の裏手の旅館街に足を運んだ。いくつか並んでいる旅館の中から、直感で「今日に関してはここが一番!」と目星をつけたところに決めた。新しい建物が気に入ったのだが、料金の安さにも驚いた。4万ウォンはするかな、という予測に反して、なんと2万5000ウォン(約2500円)。その安さに驚いた。うれしい誤算に小躍りしながら、すぐに夜の木浦に繰り出した。
鳥カルビの店
港までタクシーで行けば、極上の刺し身が安く食べられるのだが、1人ではそれもできない。韓国で刺し身を食べるときは、平目であれ鯛であれ、1匹をまるごとさばいてもらうのが基本だからだ。店も1人だけの客を最初から想定していないし、「おひとりさま」には不便がつきまとうのである。
木浦駅前のにぎやかな通りを歩きながら、すぐに見つけた鳥カルビの店に入った。この鳥カルビは鳥のもも肉を野菜や餅と一緒に辛味噌で炒めた料理。辛いけれど、その分ビールが進んで私には好都合なのだ。
店を切り盛りしていたのは、50代と20代の女性2人だった。母と娘が一致協力して商売繁盛をめざす、と好意的に見てあげたいところだが、キビキビ動く母に比べて娘のほうは動きがゆっくりで、店の手伝いを嫌々させられているという感じだった。
その娘は、私の目の前の鉄板で鳥カルビを炒めてくれていたが、いくらやっても料理が焼き上がってこなかった。明らかに火力が弱いのだ。
娘は何度も火を強くしようとしたが、ガス台が故障している様子で、最後にはあきらめた。
「違う鉄板で炒めますから、席を移ってください」
そう促されて、隣の鉄板席に移った。娘も私に申し訳ないと思ったのか、さらに新しい材料を付け足して鳥カルビを炒め始めた。サービスのつもりだったのだろうが、結果的に、これが極端な辛さを招いてしまった。付け足した材料にもたっぷりと辛味噌が入っていたからだ。(ページ2に続く)