石碑「布施辰治出生之地」
「写真がありますから、ちょっと待っていてください」
そう言って、男性は額縁に納められた写真を持ってきてくれた。そこには、茅葺き屋根の家が写っていた。
「かつては出生の地を示す碑が家の前にあったんですが、事情があって近所の集会所の前に移っています」
そう聞いて、教えられた方向に200メートルほど行くと、集会場の前に「布施辰治出生之地」と書かれた石碑が建っていた。
実際の生家と、それを示す石碑の場所が離れてしまっているが、広義にその地区を「出生之地」と考えれば、それで十分に納得がいく。
今、人権の尊さが叫ばれている時代でも、果たしてどれだけの人が他人の人権に配慮できているだろうか。
そのことは私も大いに反省するところだが、思想の自由すらない時代に、身を盾にして人権擁護や社会的弱者の救済に立ち向かえる人には、ただひたすら頭が下がる。不自由で困難な時代でも、この人たちの精神こそが最も自由で闊達だった。
「生きべくんば民衆とともに、死すべくんば民衆のために」
布施辰治の人生をたどっていくと、この言葉が素直に心にしみてくる。
文=康 熙奉(カン ヒボン)