頭を下げて感謝の挨拶
交通事故で重体に陥った妻を看病する中で知った不倫という事実……。愛の裏切りを突きつけられた主人公インスは、同じような境遇にさらされた人妻のソヨンと危険な愛に入っていく。
物語は説明的な描写を極力省略して、主人公たちの内面の変化を感性的に表す手法によって進行していった。ペ・ヨンジュンにとっても、今までの俳優人生で経験したことがない困難に苦しめられた。
1つは、撮影現場でシナリオを簡単に変えてしまうホ・ジノ監督の演出である。事前からある程度は覚悟していたものの、実際に目の当たりにしたホ・ジノ監督のスタイルは、想像以上のものだった。
準備段階で完璧にセリフを覚えてから撮影に臨んでも、それが急に変更されては、俳優もたまったものではない。ペ・ヨンジュンも戸惑いが大きかっただろうが、それでも彼はホ・ジノ監督のスタイルを尊重し、最後まで協調的な気持ちを失わなかった。それが、自分の演技にきっとプラスになると信じたからである。
もう1つの困難さは、共演のソン・イェジンが役柄と比べて若すぎた点だ。ソン・イェジンは実年齢より10歳近くも上の女性を演じなければならず、そのギャップを埋めるのは容易ではなかった。
当然ながら、相手役のペ・ヨンジュンにも影響が出てくる。しかし、彼は自分が演技上で悩んでいるにもかかわらず、常にソン・イェジンに優しい目を注ぎ、俳優の先輩として若い後輩を支え続けた。
いろいろな面で苦労が多かった。そんなペ・ヨンジュンを温かく励ましたのが、撮影現場を訪れた多くのファンたちである。
ペ・ヨンジュンも感謝の言葉を捧げる。
「撮影現場で演技の答えを見つけられず、もどかしい気持ちのときがありました。そんなときでも、外で待っていた多くのファンが一斉に拍手をしてくれました。その瞬間、泣きたくなりましたが、頭を下げて感謝の挨拶をしました」
厳寒の中で、ずっと撮影が終わるのを待ち続けていたファンの人たち。その気持ちを考えると、ペ・ヨンジュンは新たな勇気が沸いてくるのだった。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン ヒボン)