演技の成長を認められた
ペ・ヨンジュンにしてみれば、「残るも地獄、去るも地獄」という心境だった。ならば、どんなに嘲笑を浴びても最後まで最善を尽くすしか道はない。
もう、死に物狂いだった。
起きているときは常にペ・ヨンジュンの手に台本があった。自分ではセリフを完璧に覚えたと思えたが、それはあくまでも「つもり」にすぎなかった。単に頭の中にセリフを詰め込むのではなく、その場の感情をよく把握したうえでセリフを正確に言うことに専念した。機械的でなく、理性的にセリフを覚える必要性に気がついたのだ。
成果は着実に現れた。3回目の撮影のとき、ユン・ソクホが声をかけてくれた。
「どこかで専門的に演技を勉強したのか?」
短い言葉だったが、まるで演技の成長を認めてくれるかのような発言だった。
このときのうれしさといったら格別だった。
「なんでも一生懸命にやればできるんだ」
そう自覚できたのは収穫だった。以後、ペ・ヨンジュンの座右の銘は「いつでも最善を尽くす」になった。
ペ・ヨンジュンの俳優としての成長はめざましかった。多少は演技の勉強をしたとはいえズブの素人に近かったペ・ヨンジュンは、『愛の挨拶』の撮影を通して少しずつ安定した演技を見せるようになった。
そんな中で、九死に一生を得る出来事があった。あやうく溺死しそうになってしまったのだ。
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