歌ったのは『釜山港に帰れ』
ドラマ『愛の挨拶』のPD(プロデューサーを兼ねた監督)は二人いて、その名はユン・ソクホとチョン・ギサン。二人ともペ・ヨンジュンを育てた恩人である。そして、ペ・ヨンジュンに直接「合格!」を伝えたのはチョン・ギサンだった。
彼は、まだ半信半疑のペ・ヨンジュンに言った。
「今日、これから合格者たちと祝賀会をやるから、君もかならず参加するように!」
オーディションを受ける前と後でペ・ヨンジュンの人生は一変した。彼はすでにテレビドラマを作る側の人間に変わっていた。
一旦、家に戻ってペ・ヨンジュンは母に合格を報告した。母も、このうえなく喜んでくれた。それから、ペ・ヨンジュンは指定された会場に向かって、派手な酒盛りに加わった。彼がその宴会で歌った歌は『釜山港へ帰れ』だった。この選曲には参加者から爆笑が起こった。20代初めの若者が選ぶ歌とはとうてい思えなかったからだ。
ペ・ヨンジュンは興奮し、我を忘れ、大いにはしゃいだ。
「念願の俳優になれる!」
ペ・ヨンジュンはすっかり有頂天になっていた。
1994年の秋、いよいよ『愛の挨拶』の撮影が始まったが、ペ・ヨンジュンは渡された台本を何度も何度も読みこなし、これ以上は無理と言えるほどセリフを頭の中に覚えこませた。
それでも、心はドキドキするばかりであった。自分では完璧にセリフを暗記したつもりなのに、言葉の一つずつが頭の中でバラバラになってしまうかのような感覚にとらわれていた。
まさに重圧でからだが押しつぶされてしまうようでもあった。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン ヒボン)