楽しかった牧場生活
ペ・ヨンジュンの一家に大きな変化が訪れたのは、彼が小学校3年生のときだった。父が脱サラをして天安(チョナン)で牧場経営を始めたのである。チョナンはソウルの南90キロほどの距離にある地域だ。
とりあえず父だけ単身で天安に行き、ペ・ヨンジュンと母、妹は引き続きソウルの自宅に残った。
けれど、週末や長期の休みになるとペ・ヨンジュンは天安へ行き、牛や豚の世話を手伝った。
都会の生活しか知らなかった彼にとって、牧場の生活は刺激に満ちていた。家が密集したソウルの下町育ちだけに、自然に恵まれた環境は楽しくて仕方がなかった。
また、父から空気銃の使い方を教えてもらい夢中になった。自分ながら射撃の才能があると思い込み、将来は狙撃選手になろうかな、と思うほどだった。
男の子だから、当然冒険心がある。特に子供向けの冒険小説が好きだったペ・ヨンジュンは、牧場のどこかに莫大な財宝が隠されているかもしれないと空想し、牧草地のあちこちを掘ったりして楽しんだ。
そのまま牧場での暮らしが続けば、どんなに楽しかったことか。
しかし、それは長く続かなかった。父の牧場経営が失敗してしまったからだ。
借金の返済のために龍頭洞の自宅を売却しなければならなくなったのは、ペ・ヨンジュンが小学5年生のときだった。
これは本当にショックな出来事だった。生まれたときからずっと住んでいたところだけに、人一倍の愛着があった。
しかし、一家はまだ開発途上だった江南の明逸(ミョンイル)に引っ越した。ペ・ヨンジュンも子供ながら、一家の生活が苦しいことを実感せざるをえなかった。
(次回に続く)
文=康 熙奉(カン ヒボン)