第1回 スポーツの取材現場はどう変わったか
今回のお相手は韓国事情に詳しい慎武宏(シン・ムグァン)さんです。
慎武宏(シン・ムグァン)
1971年東京都台東区生まれの在日コリアン3世。和光大学人文学部文学科卒業後、ライターとして活動をはじめ、著書『ヒディンク・コリアの真実』(阪急コミュニケーションズ)で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。サッカー、野球、ゴルフなど韓国スポーツに詳しく、韓流エンタメ関連ムックの企画、編集、プロデュースも多数。『サムスンだけが知っている』(幻冬舎)など、ビジネス書籍の翻訳も多数手がけている。共著『ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実』など。スポーツ、韓流エンタメなど、韓国のさまざまなジャンルを扱うニュースコラムサイト『S-KOREA』の編集長も務めている。
韓国社会の序列文化
康「もう韓国は200回くらい行ってますか?」
慎「そこまで細かくは数えていないので」
康「でも、200回くらい行ってるんでしょ?」
慎「どうですかね。1997年の12月に初めて行って、実質的にもう20年くらいになりますね」
康「初めて行って18年間、韓国の変化を見てきたのでしょうけど、最近の韓国についてはどう思いますか?」
慎「スポーツの世界の人たちは文字通り体育会的な先輩後輩関係があったりします。そういう要素は芸能界の中にもありますね。とにかくみんなで盛り上げていこうというところが、スポーツとエンタメの両方にあるんじゃないかと思います」
康「韓国の場合はどの分野でも儒教的な序列主義というか、そういう上下関係がありますよね。たとえば、年上と年下、先輩と後輩、キャリアの違いといったことで序列がはっきりするのですが、それは初めて行った18年前と今を比べてもそんなに変わってないですか?」
慎「そうですね。スポーツ、メディア業界、エンタメ業界、出版業界と見たときに、基本的にそういう秩序がベースとしてありますね。そこに善し悪しがあるという人もいるんでしょうが、僕は全般的に序列文化というものが韓国社会においてプラスに働いている部分があると思います。もちろんマイナスもありますよ。プラスの部分では、先輩や年上の者がグイグイと後輩たちを引っ張っていく、もしくは面倒を見ていくのです。後輩たちもそういう先輩たちを目標にする。エネルギーが正しい方向に向かったときは、1+1以上のプラスの動きを見せていくので、そこはいいと思います」
康「上の者は確かに面倒見がいいですね」
慎「1つのテーブルの中で酸っぱいも甘いも苦労も喜びも一緒に共有しようというところが、韓国は日本以上に色濃いですね。その一方で、それがデメリットになっている部分ももちろんあると思います。ただ、僕は今まで18年間、韓国の人たちと付き合ってきて、そういう上下関係のせいで嫌な思いをしたという経験があまりないです」
康「ないんですか?」
慎「はい」
康「上下関係で『こういうのは見たくない』という場面が結構あるのかと思ったら、そうでもないんですね」
慎「僕はあまりないですね。先輩の紹介で後輩を紹介してもらい、その後輩が今でも僕のことを助けてくれます。その中でまた新しい人間関係が広がるという部分を含めて、僕はあまり嫌な面を見たことがほとんどありません」(ページ2に続く)