悪女が出ると人間の奥深さが見える
悪女が関与して政治が混乱した朝鮮王朝。悪女が出てきた背景には何があったのだろうか。
1つは儒教を国教にしていたことだ。儒教の最高の徳目は“孝”で、絶対権力を持つ王も民衆の模範として両親や祖父母を一番に考えなければならなかった。王の母や祖母は長幼の序で敬まれる立場なので、王に対してもいろんなことが言えた。
このように、王族の長老女性たちが政治に関与できたのは、儒教を国教にしていたからだ。儒教には男尊女卑を認めるところがあり、女性は低い身分に甘んじなければならなかったが、才能や野望がある女性はそれに甘んじることなく、逆にバイタリティを持って自分の野望を叶えていった。
男が優遇される社会だっただけに、男は甘やかされて弱いところがあり、力のある女性は策を弄して成り上がっていくことができた。そういう意味では、男尊女卑が、逆にバイタリティのある女性を多く輩出するきっかけになった。
ただし、女性は最初から悪女に生まれたわけではなく、悪女にさせられた側面もある。そうなった理由には、儒教社会の中で虐げられる女性特有の境遇と、自分に才覚がありながらも政治に関与できない悔しさがあった。
それだけに、朝鮮王朝時代に自分の夢を叶えようとすると、悪女にならざるを得ない事情も生じてしまう。朝鮮王朝時代の政治体制や社会情勢を考えてれば、悪女は肩書き中心の男性社会に、1つの大きな疑問を投げかける存在だった。
悪女を通して朝鮮王朝の歴史を見ると本当に興味深い。韓国時代劇が面白いのは、個性的な悪女がいっぱい出てきて、人間の奥深さを存分に見せてくれるからだ。
実際には、一般の女性はほとんど記録に残っていないが、王の母・祖母とか王妃・側室や女官などの特定の女性は、よく記録されている。彼女たちが、朝鮮王朝の歴史を大きく動かしたのは間違いない。
そういう視点で朝鮮王朝の歴史を見るのが韓国時代劇である。だからこそ、あれだけ面白いのだ。
(文=康 熙奉〔カン ヒボン〕)