何枚の仮面を持っているか
ファンはスターの変身をあまり望まない。居心地のいいイメージを崩されると、嫌悪感すら感じる人もいる。ファンは変わらぬ姿をスターに求めがちなのだ。
しかし、俳優の側はそういうわけにもいかない。既存のイメージを守ろうとすると、できる役も限られてしまう。それはすなわち、多様な役をこなすことが名優への条件とされる韓国では、「才能の停滞ないしは衰退」と受け取られてしまう。
ラブコメで成功したとしても、シリアスな役ならどうなのか。そこを鋭く問われる。俳優の側も挑戦を続けなければ生き残れない。
そういう意味では、チャン・グンソクが過去の成功体験を忘れて、新しいタイプの役に挑むというのは大いに歓迎すべきことだ。
生半可なことではない。
俳優生命に関わることかもしれない。
特にチャン・グンソクの場合は、今年中に兵役に入ることも予想されている。そうであるならば、『テバク』が入隊前の最後の作品になる可能性も高い。失敗すれば、チャン・グンソクとて「あの人は今」にもなりかねないのだ。
本人には、「背水の陣」という意識が強かったのかもしれない。この2年間は批判されることが多かった。それを考えると、『テバク』の制作発表会では、笑わなかったのではなく、笑えなかったのかも。
ただ、「背水の陣」はチャン・グンソクにとって悲観的なことではない。むしろ、飛躍
するチャンスになるかもしれない。
たぐいまれな容姿と、ありあまる才能。神から選ばれたような彼にさえも、死ぬほど苦しむ悩みがある。
しかし、臆することはない。何枚の仮面を持っているか。自分で数えてみることだ。仮面の数が多いほど、俳優として奥が深くなる。そして、その1枚を今度の制作発表会で使ったのかもしれない。
やはり、選ばれた者は勇気をもって新しい道を切り開いていかなければならないだろう。『テバク』が今後の道を示す作品になることを期待している。
(文=康 熙奉〔カン ヒボン〕)