ドラマ『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』に、どこまでリアリティがあるのだろうか。このドラマには、人間の生活をありのままに描いていく写実性はない。むしろ、ありえないことが連続するファンタジーなのだ。しかも、複雑な現代社会では、リアリティよりファンタジーのほうが、より人間の本質に迫れる場合が多い。
トッケビの花嫁
『トッケビ』の脚本を書いたキム・ウンスクは『シークレット・ガーデン』や『太陽の末裔』を書いた大物だ。
その力量はこのドラマでも存分に発揮された。
特筆すべきは、展開される世界が時空を超えて縦横無尽に広がっていくところ。特に、物語の設定がとても興味深い。
主役のキム・シン(コン・ユ)は、高麗時代の武将で現代まで900年も生き続けている男だ。彼は、王に裏切られて、胸に剣を刺されてしまった。しかし、死ぬことができず、そのまま苦しみながら現代までトッケビとしてさまよっている。
キム・シンが往生するためには、トッケビの花嫁を見つけて、胸に刺さった剣を抜いてもらわなければならない。
そして、彼はついに高校3年生のウンタク(キム・ゴウン)を見つけた。彼女は幽霊を見る力を持っていた。
「彼女ならにきっと剣を抜いてくれる」
キム・シンはそう期待したのだが……。
キム・シンとウンタクの他に、生を終えた人を天界へ誘導する死神(イ・ドンウク)が登場して、物語が重層的に展開されていく。
とにかく、それぞれのキャラクターが魅力的だ。
ドラマを彩るセリフも意味が深い。
非常に完成度が高いドラマで、権威がある百想芸術大賞の2017年度テレビ部門で、主要な賞を数多く獲得したのも頷ける。
演じる俳優を見てみよう。
キム・シンを演じたコン・ユの演技は絶賛された。
もともと演技力に定評があった俳優だが、『トッケビ』では900年も生きている哀愁と、不思議な魔力を持つ超人ぶりを対照的に演じていた。
そういう意味では、多様な人格を演じ分けられるコン・ユだからこそ、キム・シンの内面が深く描き出されていた。『トッケビ』が成功した第一の要因は、主役のコン・ユが握っていた。
ウンタクに扮したキム・ゴウン。彼女は、映画『ウンギョ 青い蜜』で衝撃的なデビューを果たした女優だ。
今の韓国で個性的な女性を演じさせたら、ピカイチの存在感を持っている。
そんなキム・ゴウンが演じるウンタクは、死神や幽霊のような人物たちと共同生活をすることになるが、不思議な局面でもキム・ゴウンが演じると、ごく自然なシチュエーションに感じられる。
それは、彼女が場面に応じて七変化するからだ。視聴者は、変わっていくウンタクの姿をドラマの進行とともに楽しむことができる。
一方、イ・ドンウクが演じる死神は、人間を悲劇に追い込む存在のはずなのに、わがままなサニー(ユ・インナ)に惚れ込んだり、ドジなミスをおかしたりしてしまう。
どこか憎めない死神なのだ。そんな変わった役柄をイ・ドンウクが巧みに演じてドラマを盛り上げていた。
やはり、『トッケビ』が面白い理由は、すばらしい脚本と主要キャストの魅力に尽きる、と言える。
構成=「ロコレ」編集部