黄色い軽トラックが莞島(ワンド)の国際書林の前で停まり、長身の青年が私を迎えにきてくれた。私がていねいに礼を言って店を出ようとしたら、すでに女性は先ほどのように自分の世界に入って新聞を読んでいた。彼女の頭の中には、もう私の存在は影すらないかも。切り替えの早さは、惚れ惚れするほどだった。
莞島のグルメ
軽トラックの助手席に座ると、青年は「すぐですから」と言ってアクセルを踏んだ。横顔は精悍で、くっきり見える頬骨が意思の強さを表していた。書店の女性の息子に違いはないが、書店だけでは親子が食べられないので、別な仕事をしているのだろうか。
でも、どんな仕事?
愛想もよく話しやすそうな青年だったので、これから根掘り葉掘り聞こうと思ったら、あっさりとヘグン食堂に着いてしまった。
青年に礼を言ってから食堂に入った。すでにウナギ煮込みの注文は通っているようで、店のアジュンマは私を座敷の窓側の席に案内すると、何も聞かずにそのまま厨房に戻ってしまった。
座敷にいる他の客は、中年のカップルが2組だけ。やはりグツグツと煮込まれたウナギを食べている。その匂いが漂ってくるだけで、もう腹が鳴り出した。それが何度か続いたあと、アジュンマが大きな盆に料理をたくさん載せてやってきた。
アッという間に、膳の上は皿に盛られた料理でいっぱいになった。キムチ類は白菜、カクテキ、大根の細切りの3種類、野菜のあえものはニラ、豆もやし、青とうがらし、ふき、青菜の5種類、塩辛はイカ、タラの内臓の2種類、それに、キュウリ、ノリ、小魚が加えられていた。それらをおかずにしてご飯を食べ始めたところで、煮込まれたウナギが運ばれてきた。
汁はとろとろになっている。早速、スプーンですくって汁を飲んだが、あっさりしていながらコクがある味わい。ネギや大根と一緒にウナギもじっくり煮込まれていて、その身を口に運べばすぐに溶けていくような食感だった。骨も柔らかくなっているので、そのまま噛み砕ける。初めての食感が舌に心地いい。
何よりも、ウナギ、というのがうれしい。
朝型の私は、昼までに1日のあらかたの仕事を終えるようにしているが、「今日はいい仕事ができたなあ」と思うとき、昼食によくうな重を食べる。その度に思う……世界でもウナギをこれほど美味しく食べるのは日本だけだろうなあ、と。
けれど、韓国もさすがである。ウナギ煮込みという発想に拍手だ。ウナギの身が柔らかくなりすぎて、汁の中でグチャグチャになってしまうことを嫌がる人もいるかもしれないが、煮込むほどに味がしみてまろやかになるのは確かだった。
このウナギ煮込みを食べただけでも、「莞島に来て本当に良かった」と思った。
文・写真=康 熙奉(カン ヒボン)