車内がカラオケルーム
もう一つ、別のエピソード。
ソウルから大邱(テグ)まで、在来線の急行列車に乗った。全席指定だったが、満席で席を取れない。当時は立席特急券というものがあった。立ちっぱなしを覚悟して乗るのである。
私は乗車するとすぐに食堂車に行き、ビールを飲みながら粘った。大邱まで4時間、何本のビールを飲んだことだろうか。
よく見ると、私と同じ目的の乗客が何人もいた。
3時間が過ぎた頃にはみんないい気持ちになって、そのうち歌い始める人もいた。その人はなんと、ギターまで持っていた。
私も大いに歌った。しまいに食堂車がカラオケルームのようになった。しかも、生ギターの伴奏つきである。
あんな騒々しくて楽しい車内は、後にも先にも他になかった。
(文=康 熙奉〔カン・ヒボン〕)