第13回/ウォンビン(後編)
ウォンビンの『母なる証明』での演技は、自分が持っていたイメージを破壊するのではなく、そのイメージを巧みに利用しながら新しい出発のためのエネルギーに転化させるものだった。もっと端的にいえば、その容姿に隠された真実は、彼が美しいものにも残酷なものにもなれるということを物語っていた。
計算された演技プラン
ウォンビンは映画『母なる証明』で、自分が持っているイメージの明るい面だけではなく、暗い面も掘り出した。
つまり、演技によってイメージの光と陰の両方をあぶりだしたといえる。これは、俳優として今までなかった新しい進化だ。
多くの場合、俳優が変身をはかる時は以前とはまったく違う役に挑戦する。そのほうがファンにはインパクトがあり、話題性もある。俳優自身もあまり悩む必要がなく、何もかも今までやってきたことの反対をやればいい。
ウォンビンが『母なる証明』で頭の弱い田舎の青年を演じると聞いたとき、彼が以前のイメージを変えようと無理をして、自分が持っている何もかもを破壊してしまうのではないかと心配した。
しかし、ウォンビンの演技はそのような単純なものではなかった。シナリオを綿密に分析し、計算された演技プランを立てている。
結果的に、自分が持っているイメージを元にして、そのイメージの可能性を広げた演技となったのである。(ページ2に続く)