日本から珍島に嫁に来た女性
4時半が近くなってきた。バスの時間なので礼を言って観光案内所を出ようとしたら、思いがけず男性から「この観光案内所も4時半に閉めますが、その時間に妻が車で迎えにくるんですよ。バスターミナルまで送りますから、一緒に行きましょう」と声をかけられた。申し訳ないので辞退したが、「妻は日本人だから話も合いますよ」としきりに勧められる。結局、奥さんに対する興味もあり、申し出をありがたく受けた。
ハラボジが一足先に帰り、私と男性が観光案内所の前に立っていると、1台の軽自動車がやってきた。奥さんが時間どおりに迎えに来たのだ。
男性は私を「日本から来た人です」と奥さんに紹介した。すると彼女は「やっぱりね。立っている姿を見ただけで、そうじゃないかと思ったわ」と言って笑った。
私もつられて笑った。照れ笑いである。肩をすぼめて立っていた自分の心細さを見透かされてしまったと思えたのだ。
確かに、韓国の男性は、立ち姿がふてぶてしい。周囲に隙を見せずに威風堂々と立つという習性が身についているのだ。その姿からすれば、私の立ち姿は隙だらけだったことだろう。
奥さんはそこのところをよく見ていた。快活な30代の女性で、話しっぷりも活きがいい。彼女が運転する車に乗りながら、珍島の話をいろいろ聞かせてもらった。
元々は山梨県の出身で、今は珍島の役所で働いているとのことだった。日本から珍島の民俗を研究に来る人たちの案内もしていると言っていた。地元にすっかり溶け込んでいる様子だ。
バスターミナルに着いたとき、なるべく入口の近くに停車するために、男性は奥さんに対して急なUターンを命じた。
「ここでUターンしろって? これだから韓国人は……」
あきれた顔で奥さんが日本語で言ったが、そのニュアンスが妙におかしかった。無理なことを平気で命じる癖が韓国人にある、という意味合いのようだった。それは、彼女が韓国の地方で暮らしてきた中で身に沁みた実感なのだろう。
2人に感謝して、気持ちよく車を降りた。
(第8回に続く)
文=康 熙奉(カン ヒボン)
出典=「韓国のそこに行きたい」(著者/康熙奉 発行/TOKIMEKIパブリッシング)