波瀾万丈の中で育った
ペ・ヨンジュンをずっと見ていて、私(康熙奉〔カン・ヒボン〕)がつくづく思うのは、こうと決めたときの覚悟が揺るぎないということだ。
一度決めたら絶対に信念を曲げない。
なぜ、そこまで徹底できるのか。無理に答えを探す必要もないが、1970年代前半の韓国で生まれ育ったから、ということも一つの理由になるかもしれない。
ペ・ヨンジュンが小学校に入った頃に、国を揺るがす大事件が起きた。1979年10月、長く軍事独裁政権を率いていた朴正熙大統領が部下に射殺されたのである。まわりの大人たちの様子を見ていたら、世の中が引っ繰り返ったかのように驚いたことだろう。
民主化を弾圧してきた張本人の死去。韓国に自由な風が吹くか、という期待がふくらんだが、1980年5月には一般市民を軍が虐殺するという光州事件が起き、韓国は再び暗い時代に入った。
1980年代、ペ・ヨンジュンの小学校と中学校の時代に韓国では軍事政権が続いた。子供たちにも軍への忠誠を誓う教育が施された。
とはいえ、韓国の経済成長はめざましいものがあり、貧しさを脱して1年ごとに輸出が急増する状況は「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれた。1988年のソウル・オリンピックの開催も決まり、韓国は民主化を抑圧しながら経済と軍事を優先させて国家の体制づくりを進めていった。
そして、迎えたのが1987年である。この年は、韓国の現代史を語るうえで、最も重要な転機だった。(ページ3に続く)