映画界で働き始めた
「俳優になれるんじゃないか」
その言葉を思い出したのは、まさに宿命としか言いようがない。「これだ!」と思い、もう何も他のことに目が向かなくなった。
母は反対したが、父は認めてくれた。
「お前の人生だ。責任は自分で持て」
その力強い言葉が背中を押してくれた。
やりたいことは決まった。あとは、どうやって方法を見つけていくか、である。
とにかく、映画の世界をのぞいてみようと思った。裏方でもなんでもいいから映画界で働いてチャンスを待とうと決めた。
運良く映画会社の下働きができるようになった。そこで、撮影現場の交通整理を手始めとして、頼まれたことには何でも最善を尽くした。
確かに、映画の制作システムを学ぶのにはよかったが、俳優としての展望は開けなかった。そこで、その会社を退職し、マネージメント企画会社でエージェントの活動を始めたが、それもやめて、結局は演技学校に通うことにした。
しかし、その演技学校もすぐにつぶれてしまい、ペ・ヨンジュンは将来への展望をまったく開けないままだった。
幸いに、閉鎖された演技学校の演習室はずっと空室のままだった。ペ・ヨンジュンは弁当持参でそこへ通い、仲間と独学で演技の勉強を続けた。
苦しかったが夢があった。
「コンビニのような俳優になりたい」
それが当時のペ・ヨンジュンの信条だった。
監督が望む通りの便利な俳優になるのがペ・ヨンジュンの願いだった。そのために必死になって空室で演技の練習に没頭した。
先の展望が見えない不安定な時期だったが、夢があったから耐えていくことができた。
文=康 熙奉(カン ヒボン)