追憶の済州島紀行7「感激のヘムルタン」

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島の東側に行くバスの停留所を尋ねたら、歩いて5分くらいの場所だという。そこへ向かっているときに、急に空腹を覚えた。これは大いに望むところだった。済州島の食を満喫するためには、すぐに腹が減ってくれないと困るのだ。

夕暮れの済州島(写真=済州特別自治道観光協会)




出てきたおかずは10品

適当な店に入ろうと思ったら、ガラス戸を少しだけ開けている食堂がたまたま目に入った。いかにも客を誘っている感じだった。
本来、韓国の大衆食堂というのはとても素っ気なくて、店のガラス戸にハングルで食堂の名が書かれているだけの場合が多い。韓国語がわからない旅行者には、営業努力をしない雑貨屋にしか見えない感じ。だが、この大衆食堂はガラス戸にメニュー名をズラリと並べ、それなりにやる気が伝わってくる。
しかも、店の名前が「ミンジュシッタン」だったことが気に入った。「ミンジュ」というのは、この場合「民衆」なのか「民主」なのかわからないが(常識的には「民衆」か)、いずれにしても人民に味方する食堂であることに間違いはない。
それなのに、人民が食堂に入っても誰も出てこなかった。土間に食卓用のテーブルが2つあるだけの小さな店だったが、私が何度呼びかけても反応がないのだ。
最後に腹の底から声をしぼりだしたら、空腹も手伝ってヘトヘトになってしまった。するとようやく、厨房の奥から50代のアジュンマが嫌々出てきた。




冗談ではなく、本当に嫌そうなのだ。これなら、客が来たのを知っていて、奥で知らん顔をしていたのかも。
私はいっぺんで期待感をなくしてしまったが、いまさら出ていくわけにもいかず、とりあえずヘムルタン(海鮮スープ)を注文した。済州島で食べる最初の食事であったので、やはり海産物にこだわりたかった。
アジュンマは案の定やる気がなさそうだったが、出てきたものは予想に反して実にりっぱだった。出てきたおかずは10品もあった。
順に言うと、コマッ(アサリのような貝)、チャンバンチョ(魚の内蔵の塩辛)、セオリチョ(あみの塩辛)、キムチが二種類、炒り卵、青菜のあえたもの、ニンニクの芽、細く刻んだ生キャベツ、それに味噌である。さらに、主役のヘムルタンが1人用の鍋で出てきた。
とにかく、ヘムルタンに入っていた蟹の足がやたらと旨かった。辛めの味がしみこんだ身は柔らかくて食感も抜群。よくぞ3本も入っていてくれた、という心境になった。ヘムルタンには他にあさり、コマッ、ムール貝がたっぷり入っていた。しかも、スープはまろやかで絶妙の味わいだった。




私が幸福感にひたりながら食べていると、近所の主婦が赤ちゃんをおぶってやって来て、店のアジュンマと大きな声で話しこみ始めた。気取りがなく、となり近所の付き合いが、まるで家族同士のようだった。

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

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