康熙奉の「韓国のそこに行きたい紀行」青山島17/のんびりした喫茶店

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相変わらず霧が深い。時間つぶしに、船着場の真ん前の喫茶店に入った。30代半ばの女性主人と2人の男性客がにこやかに談笑していて、他に客はいなかった。店内は異様に広い。そんなに客は入らないだろうと思われるのに、やたらとテーブルの数は多かった。

1階が喫茶店の建物




束草から来た女性

仮に50人の団体客が出航を待つ間に大挙して押しかけたとしても、それでも十分に空席を見つけられるほどだった。
私を見かけると、30代の2人の男性客がそそくさと席を立った。地元の漁師のようで、もう十分に話は出尽くしたという顔で喫茶店を出て行った。
手が空いた女性主人はすぐに私のところにやってきて、メニューを差し出した。腹十二分目といった状態なので、消化促進を考えてゆず茶を注文する。彼女は、韓国の有名なサッカー選手、パク・チソンに似たな顔立ちで(要するに目がやや細い)、人懐っこい表情で私の話し相手になってくれた。
彼女は束草(ソクチョ)の出身でチニョンさんと言った。束草といえば、朝鮮半島の東海岸に面した町で、韓国最北端にある。随分遠くから来ているものだ。
「離婚してブラブラしていたとき、青山島(チョンサンド)に嫁に来ていた友人から、この喫茶店をやってみないかと勧められたのよ。まったく知らない土地で不安はあったけれど、人生、どうにかなるかなと思って、去年、ここにやってきたの。最初は訛りがよくわからなかった。言葉で苦労するのはつらいものよ。ただ、青山島の人はいい人ばかり。暮らしも私に向いているわ。でも、シャワーだけでお風呂がないのがちょっと困るのよ。やっぱり、熱いお湯に入りたいじゃない。それで、ときどき莞島(ワンド)の銭湯へ行くの。ここでは銭湯も船で45分もかけていかなければならないから大変よ」




船に乗って銭湯に行くのは、アカスリができるからだろう。韓国の人は銭湯でアカスリをするのが大好きなのである。
「日本から来たの?」
チニョンさんがそう聞いてきた。私が頷くと、彼女は再び喋り始めた。
「知り合いで日本に嫁に行った人がいるわよ。どこに住んでいるって言ったかな。その人がご主人と一緒に里帰りしたことがあるの。その知り合いが用事でいないとき、私がご主人を食堂に案内したけど、お互いに言葉が通じないから大変だったわよ。彼は韓国語ができないのでメニューの説明に困り、実物を指差しながら美味しいものを勧めたわ。あんまりうまく伝わっていなかったみたいだけど。まあ、そんな話はどうでもいいわ。霧で船が出ないんでしょ。こんなに霧が出たのは久しぶりよ。早く船が出ればいいわね。ご覧のとおり、他に客はいないんだから、ゆっくりしていってよ」
広くてガランとした店内にチニョンさんの声だけが響いていた。
(次回に続く)

文=康 熙奉(カン・ヒボン)

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