現代の視点で過去を描く
たとえば、『王女の男』を見てみましょう。
主人公のキム・スンユと親友のシン・ミョンが対立します。結局はシン・ミョンが裏切る形になりますが、それについても「家名を高めるため」とか、「父親の出世のため」とか理由づけがされています。
つまり、シン・ミョンは自己犠牲の結果としてキム・スンユと対立せざるをえなくなっているのです。
こうした形で韓流ドラマは対立軸を明確にして、「そうならざるをえない背景」を説明しながらストーリーを展開していきます。
韓流時代劇の四番目の特徴は、「現代の視点で過去を描く」ということです。韓国ではドラマの視聴率競争が激しいので、古臭くてテンポのノロいドラマはなかなか現代人、特に若い人に見てもらえません。
そのことを制作側は肝に銘じています。
仮に朝鮮王朝を描く作品だとすると、「その時代のことを考証して各場面を再現する」と思われがちですが、事実は逆で、制作側は現代の視点で描くことを徹底させています。とにかく、現代の人に見てもらうために今の生活にテンポを合わせているのです。
たとえば、朝鮮王朝時代に使っていた言葉をそのまま使うとノロくてまわりくどくなりますので、スパスパと現代的な言葉に置き換えて話しています。
この四番目の特徴こそが、現在の韓流時代劇のもっとも顕著な特徴かもしれません。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化や日韓関係を描いた著作が多い。朝鮮王朝の読み物シリーズはベストセラーとなった。主な著書は『知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物』『宿命の日韓二千年史』『悪女たちの朝鮮王朝』『韓流スターと兵役』『いまの韓国時代劇を楽しむための朝鮮王朝の人物と歴史』など。