先祖に感謝する祭祀
金忠善の遺品を展示する書院でパンフレットをもらったので、中庭の石段の上に腰掛けて金忠善の人物像を紹介する文章を読んだ。
それによると、金忠善は日本に生まれながら朝鮮半島を慕い、この地に移り住んでからは、帰化人としての己の使命を際立たせるために戦乱の平定に奔走していたという。誠に数奇な運命をたどった人物だといえる。
書院の見学を終えると、今度は裏山の中腹にある金忠善の墓に向かった。実は、11月の日曜日に子孫たちが各地から集まってきて、1年の恵みを先祖に感謝する祭祀(チェサ)が行なわれるのである。
この日に集まったのは30人ほど。長老らしき年配者は韓服を着て身を正していた。残りの人々は直立して式次第を厳粛に見守っていた。
韓服を着た進行役の人が、金忠善から続く直系の子孫たちの名を呼びあげる。参列者は頭を垂れて墓に正対していた。
これが韓国だと思った。生活の中に祭祀があり、祭祀の中に生活がある。それが韓国の原風景なのである。(ページ3に続く)