芸能界の模範的な存在
韓国では、芸能界のスターに対して厳格な倫理観を求める傾向が強い。その反対に、スキャンダルや傲慢な態度は人気凋落に直結する。さらに、もう1つ、人気を落とす理由がある。それは、国を愛する気持ちがない、と見られてしまうことだ。
いくつかの例を挙げよう。
今から15年ほど前に韓国で熱狂的に支持されていた歌手のユ・スンジュンは、2002年にアメリカの市民権を得て韓国の国籍を放棄したことが明らかになった。
「兵役を避けるために国籍を捨てた」
そういう非難が起きると、世論の動向を無視できない法務省は、ユ・スンジュンに対して入国禁止の措置を取った。
これによって、ユ・スンジョンは芸能界での立場を失った。彼は「裏切り者」というレッテルを貼られて大衆の前から姿を消さざるをえなかった。
2PMの結成当時のメンバーだったチェボムも、国を愛する気持ちを疑われた1人である。
彼はデビューする前に、ネットにたまたま韓国を卑下するような文章を書いた。それが発覚すると、チェボムに対して非難が集中した。彼は2PMのリーダーだったにもかかわらず、グループを離脱せざるをえなくなった。
つい最近も、日本では考えられないような出来事が起きている。
ガールズグループの「AOA」のメンバーが、テレビのバラエティ番組で「安重根(アン・ジュングン)」の写真を見ても誰だかわからなかった。すぐに非難され、メンバーが涙ながらに謝罪する騒動になっている。
安重根は韓国で「抗日運動の英雄」と称される義士ではあるが、若い女性がその人物像を知らなくても、本来なら非難される筋合いはない。それなのに、韓国ではそういうわけにはいかない。「子供たちの模範になるべき芸能人が大衆を失望させてはいけない」という論理が強く働いてしまうのだ。
こうした例の対極が、「芸能人が立派に兵役の義務を全うする」ことなのである。新聞がユンホのことを「大韓民国の息子」と褒めたたえる背景には、模範になる芸能人を報道できる矜持が込められている。記者にとっての喜びは、批判的な記事を多く書くことではなく、称賛に値する出来事を誇らしげに報道することなのだから……。(ページ5に続く)