運命のオーディション
ペ・ヨンジュンは、早めに映画会社をやめてしまった。それは、専門の学校で演技を本格的に勉強するためだった。その目的は正しかったのだが、せっかく入った演技学校がつぶれてしまい、行き場を失ってしまったのも事実だった。
その後は独学で演技を学んだが、それにも限界があった。
そんな切羽詰まったときにたまたま見たのがドラマ『愛の挨拶』のオーディションの告知だった。ペ・ヨンジュン自身は、「まだまだその段階ではない」と自覚していた。万事に慎重で、よほど自信がないと前に踏み出せないのである。
今回も時期尚早と判断して受けるのをやめようと思ったのだが、どうしてもあきらめきれない部分があった。
「落ちることも経験だ。一応受けてみよう」
そう思い直して、オーディションの受験を決意した。それだけでもペ・ヨンジュンにとっては大変な決断だった。
オーディションの当日、ペ・ヨンジュンの心は震えっぱなしだった。こんなに緊張したことはなかった。しかも、オーディションは延々8時間もかかり、終わったときは一歩も動けないほど疲れ果てていた。
それなのに、次の瞬間には飛び上がっている自分がいた。なんと、その場で合格が決定したのである。
それも主役だ。ペ・ヨンジュンが、自分の人生に起こった奇跡を一つあげろと問われれば、かならず「『愛の挨拶』のオーディションの合格」と答えるのも無理はなかった。合格した本人が一番驚くほどだった。
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