不可能を可能にする職場
同じ映画の地方ロケに同行できたことも幸いだった。
季節は冬だった。寒さの中での長時間ロケは苦労の連続だった。裏方に徹していたペ・ヨンジュンは「休憩時のコーヒーを用意しろ」という厳命を受けた。しかし、人通りのない場所で店も自販機もない。
「どこで温かいコーヒーを調達すればいいのか……」
ペ・ヨンジュンは戸惑った。いくら走っても店がない。途方にくれているときに、ポツリと民家が目に入った。もう手段を選んでいる場合ではなかった。
その民家に駆け込んでペ・ヨンジュンは言った。
「映画の撮影に来ているのですが、みんな寒さでふるえています。申し訳ありませんが、コーヒーを頂戴できませんか」
突然の珍客に家の主婦は驚いたが、そのときのペ・ヨンジュンの姿をあまりに哀れに思ったようで、冷たく断るようなことをしなかった。
ペ・ヨンジュンはヤカンにたくさん入ったコーヒーを持って撮影現場に戻った。大歓迎を受けたことは言うまでもない。
様々な出来事を通して、ペ・ヨンジュンは撮影現場で逞しさを少しずつ身につけていった。
なにしろ、撮影現場というのは、ある意味では軍隊と似ていた。「できなくても、できるようにしろ」という鉄則が生きていて、絶対に口にしてはいけないのが「不可能」という言葉だった。
「映画会社の制作部の仕事をしていた経験は、その後も大きな助けになりました」
ペ・ヨンジュンがそう断言するほど、撮影現場での経験は貴重だった。
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